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高峰秀子「にんげん住所録」

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昨年の12月に亡くなった女優、高峰秀子のエッセイ「にんげん住所録」を読んだ。
高峰秀子といえば、日本映画界を代表する大女優であるが、1979年の「衝動殺人 息子よ」を最後に女優を引退、以後はエッセイストとして生きた。
同じく昨年亡くなった池部良も、同様の生き方をした人だった。
そんなふたりが、期せずして同じ年に亡くなった。
年齢でいえば池部良が6歳年上だが、映画界においては5歳でデビューした高峰秀子のほうが先輩に当たる。
そんなことから池部良は高峰秀子を「先輩」と呼び、敬して付き合いをしたようだ。
ふたりの接点としては、戦場から引き上げ、疎開先でくすぶっていた池部良のもとを訪れて、映画界復帰の話を持ち込んだのが高峰秀子であった。
そのときいっしょに着いて来たのが当時助監督だった市川崑。
共演することがそれほど多くはなかったものの、そんな経緯のあったふたりが、俳優引退後はともにエッセイストとして活躍したというのも、何となく因縁めいている。

ところでエッセイ「にんげん住所録」だが、映画人との思い出もいくつか書かれている。
木下恵介、小津安二郎、黒澤明の3人の監督について書かれたエッセイである。
この3人のうち、いちばん出演作の多かったのは、木下恵介監督である。
「カルメン故郷に帰る」に始まり、「女の園」「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾歳月」など12本にのぼる。
これは最も多かった成瀬巳喜男監督の17本につぐ数になる。
小津安二郎監督とは数本のみ、しかもほとんどが子役時代の出演で、成人してからの出演は「宗方姉妹」1本のみといった間柄である。
しかし小津監督にはとくに気に入られたようで、映画以外ではかなり親しい付き合いがあった。
映画や能の観劇、そしてその後の料亭での宴会といったふうに、あちこちと連れ歩かれた思い出が書かれている。
そして3人目の黒澤明であるが、彼の作品には一本も出演をしていない。
だが、それでいて彼女の人生の中では、忘れられない思い出として残っている。
それは山本嘉次郎監督のもとで、黒澤明が助監督をしていた時代のことである。
高峰秀子は山本監督の「綴方教室」や「馬」といった作品に出演をしており、そうした撮影のなかでふたりは親しくなり、次第に恋愛感情へと発展していった。
しかし一家の働き頭として家族を支えていた彼女は、母親の強引な反対にあって、この恋は実ることなく終わってしまう。
そのへんの詳しい経緯については彼女の自伝「わたしの渡世日記」に書かれているので、このエッセイでは端折られているが、その後日談として山本嘉次郎監督亡き後の思い出会の集まりで再会した時の様子が書かれている。
何十年ぶりかで会ったふたりが、ごく短い会話を交わす。
そのシークエンスを読んでホロリとさせられたので、これから読む人の楽しみを奪ってしまうことになるかもしれないが、ここに書き出すことにした。
本で読みたい人は、飛ばしていただければ幸いである。

< 壁際に並べられた椅子のひとつに腰をおろした私は、懐かしい山さんの遺影をじっと瞠めていた。全盛時代の山さんの友人知己のほとんどは亡くなっていて、会場には六、七十人ほどの映画人がいただろうか。その中から、長い手足をフラフラさせながらクロさんが出てきて、私のとなりの椅子に腰をおろした。何十年か振りに会ったクロさんだったが、クロさんも私も「こんにちは」でも「しばらく」でもなく、ただ黙って山さんの写真を瞠めていた。なにか言わなければ・・・・・と焦った私の頭の中に、とつぜん、二、三日前に観た「デルス・ウザーラ」の映像が浮かんだ。
「デルス・ウザーラ、観た」
「そう」
「ロングショットが多かったネ。人物もバストがせいぜいだった。どうして?」
「ボクね、なんだかクローズアップを撮りたくなくなっちゃったんだ」
「なぜ?役者が下手だから?」
「いや、そんなことはないけど」
「ないけど、なにサ?」
「つまり、アキちまったんだね」
「そうか・・・・つまり、トシとったっていうことね」
「ま、そういうことだ」
 マイクを手にした司会者が大声で喋りはじめて、クロさんと私は椅子から立ち上がった。それが、黒澤明を見た最後になった。>

なんだか映画のいちシーンを観ているようだ。
いろいろあった男と女が、長い時間を経た後に再び出会い、恩讐を越えてさらりとした会話を交わす。
高峰秀子らしい、淡々とした文章だが、それだけにその裏に隠された万感の想いが伝わってくる。
そして人間、最後はこうありたいものだと、心の底から思った。
この話を読んだだけでも、この本を読んでよかった。
そう思いながら本を閉じたのである。


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