風に吹かれて

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Category: 読書

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大崎善生「アジアンタムブルー」

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「優しい子よ」に続いて読んだ大崎善生の小説である。
「優しい子よ」はどちらかといえば、作者自身の体験をもとに描いたドキュメンタリー風の私小説だったが、こちらは純粋なフィクションである。
ただ共通して感じるのは、やはり「優しさ」であった。

「アジアンタムブルー」というのは、シダ科の観葉植物であるアジアンタムが元気をなくした状態のことを指している。
そうした状態に陥ると、いくら水や肥料を与えても効き目がなくなり、多くは枯れるのを待つだけになってしまう。
だがそうした状態をまれに乗り越えられたアジアンタムは、その後二度とブルーになることはなく、元気に育っていく。
小説の中の表現を借りると「憂鬱のなかから立ち上がったアジアンタムだけが、生き残っていく」のである。
そのアジアンタムを恋人の死という悲劇に直面した主人公の姿と重ね合わせ、そこからの再生を描いている。
しかしこう書くと、ごくありふれた難病ものを想像するかもしれないが、この小説はいささか趣を異にしている。
もっと深く、溢れるばかりの豊かさを内包した物語世界が綴られている。
それは作者の研ぎ澄まされた文章と、さまざまな道具立てのうまさ、そして人間を見る目の確かさに裏打ちされているからである。
道具立てで言えば、まずはアジアンタム、そして水溜り、熱帯魚の水槽、鳥図鑑、植物図鑑、ジグゾーパズル、スープ・ド・ポワゾン、ボルシチ、シャガール、そしてさまざまな音楽、それはたとえばエルトン・ジョンの「ユア・ソング」、キング・クリムゾンの「エピタフ」、ポリスの「ブリング・オン・ザ・ナイト」、キース・ジャレットの「フェイシング・ユー」といった曲、そうしたものに彩られて物語は静かに豊かに展開してゆく。
何度も胸を締めつけられ、打ちのめされ、そして主人公が次第に再生への道を歩き始めるのにつれて、熱い感動に胸を震わせられたのであった。
「憂鬱の中から生まれてくる優しさ」この言葉がいつまでも消えずに心の中に残っている。
人が生きること、そして死にゆくことの根源に触れるような小説であった。

最後に小説のなかで繰り返し登場し、そして恋人が死にゆくときにも流した曲、エルトン・ジョンの「ユア・ソング」の訳詞が書かれた映像があったので、載せておくことにした。
これを見たことで、またもういちど深い余韻に浸ることができたのであった。




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テーマ : 恋愛小説  ジャンル : 小説・文学

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