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Category: 読書

Tags: エッセイ・評論  

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藤原新也「なにも願わない手を合わせる」

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藤原新也の著書を読むのは、これが2冊目になる。
最初に読んだのは「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」という短編集であった。
それを読んで感銘を受けたので、彼の書いたものをまた読んでみたいと思い、見つけたのがこの本であった。
藤原新也といえば「メメント・モリ」や「東京漂流」が代表作としてよく知られているが、そうした本は今は手に取る気にはならない。
20数年前、「メメント・モリ」が出版された時、その本を書店で見つけ、パラパラっと中身を見たときに一枚の写真に釘付けになった。
それは、ガンジス川の畔に打ち捨てられた死体の足を野犬が咥えている写真であった。
そしてそこには、こう書かれてあった。
「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」
その即物的なおおらかさと、それを見る冷徹な視線に衝撃を受け、しばらく呆然としていたことを思い出す。
以来、藤原新也という人物は記憶のなかにしっかりと刻まれることになったが、彼の著作を読むことはなかった。
それはおそらく「啓して遠ざける」といった気持ちや、これほど衝撃的な写真を撮る作家のものを読むには、かなりのエネルギーが必要だろう、きっと骨が折れるに違いない、そういった思い込みがあったからである。
しかし最近偶然手に取った「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」は、そうした印象とはいささか違っていた。
それは物事を厳しく見つめるがゆえの、優しさや暖かさを感じさせられるものであった。
同時にその詩的な文体、文章のうまさにも魅了されてしまった。
それは、今回読んだ「なにも願わない手を合わせる」でも同様であった。
さらに、そこで語られる深い死生観にも、魅了されたのである。
このエッセイは彼の兄が食道癌に冒され、苦しみ抜いた末に亡くなったことをきっかけに、その供養と自らの気持ちを浄化しようとの思いから四国霊場巡りをした際に書かれたものである。
そこには、その道中で巡り合ったさまざまな人との出会いや別れ、また印象に残った光景などが綴られており、そのなかで人間の死や生についての思いが語られていく。
そのひとつひとつに、まるで上質の短編小説を読んでいるようなおもしろさや感動があった。
「顔施」「童眼」「老い歌」「なにも願わない手を合わせる」「古い時計」(これはまるでつげ義春の世界のようだ)「安らかなり」「犬影」「人生のオウンゴール」「春花考」など、いずれも印象深いエピソードばかりだったが、なかでも「菜の花電車」がとくに心に残った。
それは高校時代の同級生との出会いと別れを描いたもので、その切なく寂しい話を読んだ後、次のページをめくると斜面いっぱいに咲きほこる菜の花の写真があった。
それを見たとき、言い知れぬ感動で胸がいっぱいになってしまった。
彼はその風景を「まるで天国からの贈りものみたいじゃないか」といった言葉で表している。
続いてつぎのように書く。
「黄色い輝きは、瞬く間にすれ違い、過去の方に向かって走る。
生きとし生けるものは皆、
その早春の風にゆれる菜の花の淡い哀しみを心に秘めているものだと暗喩するかのように、
黄色い光は、窓際に座る筑豊の人々の横顔をリズミカルに染めて行きながら、
遠く、
遠く、
・・・遠ざかる」
なんと詩的な表現であろう。
そしてなんと深い余韻を残す言葉であることか。
こうした出会いや光景が藤原新也というファインダーを通すことで、かくも詩的に語られるのである。
そしてそれらを読むことで、著者自身の心が浄化されるのと同じように、読む側の心も静かに浄化されていくのである。

この本は「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」とともに今後も繰り返し読むことになるにちがいない。
そんなふうに思わせる、味わいのある本であった。


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