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風に吹かれて

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Category: 読書

山田太一「逃げていく街」

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山田太一のエッセイ集「逃げていく街」を読んだ。
これはあまりエッセイを書かないという山田太一の10年分のエッセイをまとめたものである。
少年時代の回想に始まり、大学時代の思い出、松竹大船撮影所時代のこと、好きな映画や本のこと、さらには自身が書いたテレビドラマのことなどが書かれている。
そのなかに松竹時代に助監督としてついた木下恵介監督のことを書いたエッセイがあり、それを読んで「なるほど」と思ったので、ちょっと長くなるが、以下にその一部を書き出してみる。

そのエッセイは、木下恵介監督が黒澤明監督と、ほぼ同時期に監督デビューをし、ともに注目されたことから、比較して語られることが多かったという書き出しから始まっている。
そして木下作品のほうが評価が高かった時代があったものの、黒澤作品が海外から高い評価を受けるようになるにしたがって、その立場が逆転する。
だがほんとうにそうなのかと、山田太一は問う。
そして次のように続ける。

 日本ではあれほど評価された木下作品が、どうして黒澤ほどの評価を海外で受けないか。それは作品として少し劣っているせいではないかと当惑し、しかし公開時に見た時の感動を思うと否定も出来ず、評価を口ごもるところが多くの人にあったように思う。
 それは西欧人に接する時の日本人の二面性に通じるところがあるかもしれない。西欧人はイエスとノーをはっきりいい、弱さを見せず、自我を持ち、なにについても意見を持つ人間を評価すると聞き、一所懸命それに合わせて評価を手に入れつつ、一方でひそかに日本人はそれだけの存在じゃない、と思っている。イエスとノーをはっきりいうほど単純ではないし、強けりゃいいとも思っていないし、自我を持つことが何よりなどと無邪気には思えないし、なにについても意見を持つなどということのいかがわしさも知っている。しかし、そういう側面を表に出すと、西欧人は理解しないだろう、軽蔑するかもしれない。そう思って自分を隠している。その隠している一面を木下作品が豊かに持っているというところはないだろうか?私は、西欧人に簡単に分からないことこそ、むしろ木下作品の豊かさなのだと思っている。


さらに

 いま多くの人が、ありそうもないから、と諦めているものを木下監督は描こうとしている。若い二人の自我の弱さゆえの美しさ(野菊の如き君なりき)教師と生徒たちの固い結びつき(二十四の瞳)信じ合い助け合う夫婦、思い合う親子(喜びも悲しみも幾歳月)。そんなものは非現実だとしらけるのは簡単だが、しらけている人間だって、心の底ではそうしたものを手に入れたいと思っているのではないのか?木下監督はもう一度問い直す。「本当に、現実はそうはいかないのか?」と。駄目だと思い込んで、「諦めているだけではないのか?」と。
 それには少し理想家の強引さがあるかもしれない。
しかし、善も時に魔と呼ぶしかない激しさをともなわなければ力を持たないのだという「善魔」の台詞のように、監督の「美しい世界」を描こうとする願いは強い。
 そしてその世界を支えている土台は、西欧風の美意識や価値観ではなく、かつて日本人の多くが共有し、いま尚実は共有し続けている、人をつきつめることのない優しさ、曖昧さ、非論理、いたわり、弱さ、涙、嘆き、忍耐、諦めなのである。それらを肯定する力なのである。これは西欧人に簡単に共有できる世界ではない。しかし私たち日本人には、決して無縁な世界ではなく、ことによるとこうした世界を見直し肯定するところに、私たちの未来はあるかもしれないのである。


また

 たとえば私は、信州の魅力を木下作品を通して教えられた。同じように、小豆島の美しさも「二十四の瞳」によって教えられた。作品に描かれることではじめて存在する土地というものがある。無論それまでだって存在していたのだが、非凡な目を通すと新しい土地になる。木下作品は、そんな力を持つ映像に満ちている。遠景の美しさ、カメラ移動の快さ、朝の霧、昼の雨、夜の闇、その多くはカメラマン楠田浩之の成果でもある。私は数年木下監督の下で助監督をした人間だが、美しい雲の現れるのを待って何日もねばるおふたりの姿を忘れられない。多くの作品は、現在の日本映画の状況では到底撮ることの出来ない、贅沢で丁寧で品格のある映像をたっぷり含んでいる。

と書いて、その魅力を説く。
身近にいた山田太一だからこそ、書けることなのだと思う。
こういった文章に接すると、映画に対する理解が、なおいっそう深まる。
そして作品の輪郭が、かなりはっきりとしてくるのである。

こうして書いているうちに、木下作品をむしょうに見直してみたい気持ちになってきた。

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テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌

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