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Category: 読書

Tags: エッセイ・評論  

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久世光彦「マイ・ラスト・ソング 最終章」

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1992年「諸君!」4月号から連載が始まった「マイ・ラスト・ソング」は、2006年に亡くなるまでの14年間続いた久世光彦の長期連載シリーズである。
今回の「最終章」が出るまでには、「マイ・ラスト・ソング」、「みんな夢の中」、「月がとっても青いから」、「ダニー・ボーイ」と都合4冊が出版されており、これが5冊目の「マイ・ラスト・ソング」である。
「末期の刻(とき)に聴く歌を選ぶとすれば、どんな曲を選ぶだろう」という座興のような発想から生まれたシリーズではあったが、歌謡曲フリークの久世光彦にとっては、まことにふさわしいシリーズだったようで、これほど長期に渉る人気シリーズになったのである。
そしてこれだけの分量にまとまると、時代を捉えた見事な昭和史ともなっている。
「この連載が終わるのは、雑誌が廃刊になるときか俺が死ぬときだな」の言葉通り、2006年の死によって連載は終了したが、童謡や唱歌、洋楽から歌謡曲までの100を越える曲が選ばれている。
その一曲一曲に深い思い入れがこめられており、まるで上質の短編小説を読むような味わいがある。
またそれは時には単なる曲選びというだけではなく、あの時のあの人が歌った歌というような限定されたものも登場する。
たとえばそれは次のようなもの。

秋なら、四谷シモンである。そして四谷シモンなら「影を慕いて」である。
 たった一度しか聴いたことがないのだが、この人の「影を慕いて」は絶品だった。凄絶というか、妖異というか、あるいは静かな狂乱というか、とにかく聴いているうちに死にたくなるのである。まだカラオケがいまほど盛んではない頃の話で、小さな地下のクラブでシモンはギター一本の伴奏で歌いはじめたのだが、それまでザワザワしていた店内が、誰がどう制したわけでもないのに、いつの間にか静まりかえって、見るとシモンが蒼い頬に薄ら笑いを浮かべて歌っていた。怖いくらいにいい歌というものは、いつもどこか投げやりなところがあるものだ。私は、シモンがあの世を覗いて帰ってきたのかと思った。


昔状況劇場の芝居で、四谷シモンの歌を聴いたことがある。
この文章を読みながら、その時の情景が目に浮かんできた。
そして「死にたいと思った」久世光彦の気持ちに、痛いほどの共感をおぼえた。

さらに次のようなものもある。

他の歌を歌わなかったわけではなかったが、上村一夫と言えば「港が見える丘」だった。この歌を歌うために飲みに行くのではないかと思うくらい歌いたがったし、みんなも聴きたがった。ギターのコードは間違いだらけだったけど、この歌だけは他人の伴奏を嫌がって自分で弾いたし、またそれが絵になっていた。弾き語りというのはこういうことなんだと、私は上村の「港が見える丘」を聴くたびに思ったものである。思い入れ十分に泣くのではない。まるで秘かな猥歌のように、ヘラヘラ笑いながら唄うのである。それは、戦後のあのころならどの町にもあった汚いドブ川の水が、品のないネオンの色を映してゆっくり流れて行くような「港が見える丘」だった。


こういう文章を読んでいると、けっして聴くことはできないその歌を、無性に聴いてみたい衝動に駆られる。
そして歌というものは、そのシチュエーションによって、さまざまな色彩を帯びるものなのだということを、あらためて思うのである。

久世光彦はこうした歌を聴きながらさめざめと涙を流す。
というよりも泣きたいために歌を聴くのではと思わせるほど、その感傷に溺れようとする。
そしてその感傷の波が、読んでいるこちら側の記憶を刺激して、ともに感傷に耽ることになる。
それはとても心地いい読書体験である。
いつまでもその感傷に浸っていたいと思わせる。
最初に単行本化されて以来、このシリーズを読み続けてきたが、これで終わりとなると親しい友人を失ったような寂しさがある。
そのひとつひとつを噛み締めながら読んだ。
そしてこのシリーズを読むときには必ず思うことだが、自分にとっての「マイ・ラスト・ソング」とはいったいどんな曲だろうということを、またあらためて考えてしまうのである。


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テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌

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