Category: 落語
金原亭馬生「親子酒」
10代目金原亭馬生は5代目古今亭志ん生の長男で、
3代目古今亭志ん朝の兄である。
名人志ん生と人気者志ん朝の間にはさまれて、
どうしても地味な存在に見えてしまうが、
落語のうまさ、味わいではこのふたりに負けていない。
というよりも独特のとぼけた味わいと上品さをもっており、
両者のいいところを併せ持ったような落語家といえよう。
その馬生の「親子酒」を聴いた。
酒好きの商家の親子が、商売の失敗につながりかねないという理由から
酒を断つことをお互いに約束するが、結局は酒の誘惑に負けてしまい
禁を破るという話で、酒好きの馬生らしい一席だ。
酒好きといえば父親の志ん生の酒好きは、つとに有名だが、
馬生もそれに負けないほどの酒好きだったようだ。
朝、起抜けから酒を飲むほどの酒好きだったそうで
その馬生の噺だけに、酒飲みの心理や酔態が微に入り細に入って語られる。
そのしぐさのひとつひとつに笑いを誘われて、思わず「うまい!」と
掛け声をかけたくなってしまった。
馬生は1982年に54才の若さで急逝したが、
この噺の時にはまだ50前後だったわけで、
そんなに若かったのかと正直いってビックリである。
とてもそうは見えない。もっと年寄りに見えてしまう。
少し猫背気味にゆったりと語る様子は枯れた年寄りそのもの。
だがそれは落語家としてはけっしてマイナス要素というわけではなく、
むしろ美点のひとつといってもいいだろう。
ほとんどの名人上手が年老いてから花開いたように、
落語という芸を磨くためには長い年月が必要なのは自明のこと。
そんな年季を感じさせる雰囲気を馬生は若くして身につけていたわけだ。
ご隠居や商家の大旦那をやらせると天下一品なのも頷ける。
そんなことを思いながらこの噺を楽しんだ。
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