映画「ゆれる」

先日「トウキョウソナタ」を観たあと、妻は香川照之のことが心に残ったようで、彼の出演する別な映画も観てみたいというリクエストがあり、それに応えて、この映画を借りてきた。
監督は若干31歳(この映画を監督時)の西川美和。
シナリオは彼女が見た夢をヒントに、自らが書いたオリジナルである。
主演はオダギリジョーと香川照之。
ふたりが対照的な兄弟を演じている。
故郷を離れ東京でカメラマンとして成功している華やかな弟(オダギリジョー)と、家業の小さなガソリンスタンドを継いで、父親と二人でわびしく暮らす地味な兄(香川照之)。
そんなふたりが母親の一周忌の法要で久しぶりに顔を合わす。
そして兄のガソリンスタンドに勤める、弟のかつての恋人(真木よう子)を巡る目に見えない葛藤がふたりの間に生まれ、三人で遊びに行った山間の渓谷で、彼女がつり橋から転落死するという事件が起きる。
それをきっかけに、兄弟、親子の間に横たわるさまざまな愛憎が露わになってゆくという物語である。

題名どおりに、さまざまなものが「ゆれる」。
人間関係がゆれる。それぞれを思う気持ちがゆれる。記憶がゆれる。
そして彼女の死を巡る裁判でも、事実が二転三転してゆれる。
はたして真実は何なのか、緊迫した展開で裁判が進行していく。

見事な映画である。
若干31歳でこれほどの映画を撮った、西川美和という女性監督の才能には驚嘆してしまう。
人間を見る目の確かさ、微妙な男心、そして女心、そういったものを的確に捉えて表現する手腕は、若い女性のものとは思えないほど深いものがある。
割り切れないのが人間の心、けっして理路整然とだけ動いていくわけではない。
ときには矛盾を孕み、理解しがたい心の暗闇も存在する。
そんな果てしなく深い人間の心の闇を、この映画は見事に覗き込ませることに成功している。

オダギリジョーと香川照之の演技が素晴らしい。
陰と陽、動と静という対照的な兄弟をふたりは見事に演じている。
さらにその陰と陽が本音をぶつけ合うなかで、ときに入り乱れて立場を変える。
そんな微妙な関係を、ふたりはうまく醸しだしてみせる。
そしてふたりの関係が崩壊してしまった後に訪れるラストシーンの素晴らしさには、鳥肌が立つほどの感動があった。
これは、映画ファンなら必見の映画だ。
それにしても最近の日本映画は女性監督の活躍が目覚しい。


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