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風に吹かれて

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Category: 日本映画

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映画「いつか読書する日」

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3年前に観て、感動、何かにつけて思い出す映画「いつか読書する日」が一昨日NHK BS で放映された。
あの感動を妻にも伝えようと、ふたりで観たが、3年前と変わらず、いや、それ以上に感動してしまった。

中年(50歳)の男女の恋物語。
どこにでもいる男と女。
言ってしまえば、ごく普通の冴えない「おじさん」と「おばさん」の不器用なラブ・ストーリー。
と、こう書くといかにも地味で、面白味のない物語と思うかもしれないが、どんな美男、美女のラブ・ストーリーよりも見ごたえがあり、感動がある。

主人公は、毎朝牛乳配達をし、日中はスーパーのレジ係りをしている50歳の独身女性。
人から「何が面白くって生きているんだろう」と思われるような地味で、面白味のない生活である。
いっぽうの男は、役所の福祉課に勤める、こちらもごく普通の中年男。
家では末期癌で死の床に就いている妻がいる。
そしてその看護をしながら役所勤めをする毎日。
そんなふたりに、接点はない、彼女が彼の家に牛乳を配達をしているということを除いては。
だが映画が進むにつれて、次第にふたりの過去が明らかに。
そして実はふたりの間には、切っても切れない深い関係があることが分かってくる、という物語。
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主役を演じているのは、田中裕子と岸辺一徳。
ふたりが素晴らしくいい。
田中裕子は化粧っ気のない素顔で、オシャレもせず、毎日ひたすら牛乳を配達し、レジを打つという生活を繰り返している。
だがその単調で変化のない日常をカメラが追い続けていくうちに、そういった生活でもじゅうぶんに充足して生きている様子が浮かび上がってくる。
まだ日の昇っていない早朝、坂の多い町を、牛乳ビンの入ったバッグを抱えてひたすら走り続ける。
薄暗く寝静まった町に牛乳瓶の触れ合う音と、彼女の息遣いだけが静かに響き渡る。
そして仕事が終わった夜、ひとり静かに本を読む。
そんな姿を見ていると、ああ、こういう生活も悪くないな、と思わせるものがある。
人から見れば、刺激がなく、何の魅力もないように見える生活でも、自分なりの生き方を選び取った人間にとっては、そのなかにいろんな喜びを見出すことができるのだということ。
そう思わせるものが、彼女の生活のなかにはある。
そしてこれは、10代で「私はひとりで生きていく」と決めた、自らの決意表明に忠実に生きている姿なのだということが分かってくる。
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また岸辺一徳は、末期癌の妻の介護を献身的に続ける毎日。
そして役所でもそうした生活態度同様に、自らの仕事を忠実にこなしている。
彼もあることをきっかけに「ぜったいに平凡に生きよう」と誓い、そのとおりの生活を続けている。
一見すると、ごく普通で目立たないふたりだが、実は大切な何かを封印して、まるで十字架を背負ってでもいるかのように生きているのだ。
それが次第に分かってくるにつれて、何気ない日常が急にドラマチックで、緊迫感に満ちたものに見えてくる。
毎日通勤途中で出会っても、お互いがまるで見知らぬ同士のようにすれ違う。
彼女が勤めるスーパーで買い物もするが、けっして彼女のレジには並ばない。
最初は見知らぬ他人同士のように見えているが、実はそうではないと分かると、急に張り詰めたものがふたりの間にあることに気付かされる。
自然な空気が流れているだけの何気ない日常が、実は目に見えないバリアがあること、お互いが意識的に相手を無視しているのだということが分かってくる。
そしてそういった微妙なバランスが、ふたりの間で30年以上も続いていることも次第に分かってくる。
だが、そうした緊張感が、あることをきっかけに崩れ始める。
と、とたんにドラマは激しく動き出す。
このへんのドラマづくりが実にうまい。
唸らされてしまう。
そしてその後は激しい展開を経て、一気に結末へと突き進んでいく。

形は中年の男女の物語だが、実はふたりの心は10代のころの少年、少女のままだ。
そこで時間が止まったまま、30年が過ぎてしまった。
その過ぎ去った30年を取り戻そうとするかのような時間がやがて訪れる。
究極の秘めた恋、その顛末が切なく悲しい。
そして激しく心を揺さぶられる。
これを悲恋と思う人がいるかもしれない。
だが、けっしてそうではない。
いや、そうではないと思いたい衝動に駆られてしまうのである。
そして自ら選び取った人生を真っ直ぐに生きていく田中裕子演じる主人公の逞しい姿に、深い感動と共感をおぼえたのである。

この映画は緒方明監督が少年時代を過ごした長崎をロケ地として撮影されたそうだが、坂が多く迷路のような長崎の町の特徴がうまく生かされていて、映画に微妙で情緒あふれる空気感をもたらせている。
また脇役で登場する仁科亜季子、渡辺美佐子、上田耕一、香川照之といった俳優たちの存在も忘れがたい。

こうした映画と出会えた幸運を思い、そして主人公の田中裕子が大切に思い続けた心情と同じように、この映画をいつまでも心の中に留めておきたい、と思ったのである。


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テーマ : 日本映画  ジャンル : 映画

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