Category: 外国映画
映画「希望の灯り IN THE AISLES」

先月観た映画は3本。
この他には「マイ・ブックショップ」と「ローマ法王になる日まで」の2本。
何となく気ぜわしく、ゆっくりと映画を観る気にならなかったというのがその理由だが、たまたま観た3本はいずれも地味な内容ながら、いい映画だった。
さらに、「マイ・ブックショップ」はイギリス、スペイン、ドイツの合作、「ローマ法王になる日まで」はイタリア、そしてこの「希望の灯り」はドイツと、いずれもヨーロッパ映画ばかり。
別段意識して選んだわけではないが、結果的にそうなったということだ。
気ぜわしく、ゆとりのない気持ちが、そういったものを自然と選ばせたということなのかもしれない。
いずれにしてもその数少ない映画に癒された。
なかでも「希望の灯り」は、いちばん印象に残る映画だった。
旧東ドイツ、ライプツィヒ近郊のスーパーマーケットが舞台。
そこにいわくありげな青年クリスティアンが、見習い社員として入ってくる
そしてそこで出会った同僚たちとの交流を通し、内気で引きこもりがちなクリスティアンが次第に変わっていく様子が描かれる。
なかでも直属の上司であるブルーノと、菓子コーナーで働く年上の女性マリオンのふたりが重要な人物として登場する。
ブルーノは旧東ドイツ時代にはトラック運転手として働いていた中年男。
無骨でいかつい外見とは違って、何くれとなくクリスティアンの面倒を見てくれる。
そしていつしかクリスティアンにとっては父親のような存在になってゆく。
そしてもうひとりのマリオンは、クリスティアンが見染めた相手。
彼女の謎めいた魅力に引き込まれ、次第に親密になってゆく。
また彼らふたり以外の同僚たちも、素朴な人物ばかりで、新参者のクリスティアンを優しく受け入れてゆく。
実はクリスティアンは罪を犯して刑務所を出たばかりの人間だということが次第に明らかにされていくが、そんないわくつきのクリスティアンであっても同僚たちはごく自然な態度で接してくれる。
それは彼らが東ドイツ崩壊後の混乱の後に、社会から取り残されてしまった人間ばかりということが大きいのかもしれない。
クリスティアン同様、社会の片隅で複雑な思いを抱えながら生きる人間としての共感が、いわくつきのクリスティアンへの優しい眼差しとなっている。
そしてそんな環境が、クリスティアンの心に次第に温かいものを灯してていくようになる。
舞台となるのがほとんどがスーパーマーケットの倉庫の中。
そこに流れる「美しく青きドナウ」の音楽に合わせるようにフォークリフトが滑らかに動き回る映像を見ていると、殺風景な倉庫の中が急に特別な空間に見えてくる。
そしてその限られた空間のなかで懸命に働く人たちの姿が、切なくも親近感溢れる隣人として迫ってくる。
人生決して悪いことばかりじゃない。
ささやかだが歓びもあれば、希望もある。
そんな声なき声が聞こえてくるようだ。


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