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Category: 読書

Tags: 村上春樹  

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村上春樹「騎士団長殺し 第2部:遷ろうメタファー編」

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村上春樹の小説の重要なキーワードのひとつに、「シーク・アンド・ファインド(seek and find)」というのがある。
主人公が「何か」を探し、「見つけ出す」ことである。
この小説の骨格となっているのも、「シーク・アンド・ファインド」ということになる。
ではこの小説では、いったい何を探し出そうとしているのか。
その手がかりとなるのが、主人公の「私」が、屋根裏で見つけた雨田具彦の未発表作品「騎士団長殺し」である。
ドン・ジョヴァンニが騎士団長を剣で刺し殺すという、モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の場面をモチーフに、それを飛鳥時代に移し変えて描いた日本画である。
雨田具彦の最高傑作と云っていいほどの完成度の高い作品であるが、それにもかかわらず、なぜそれを隠さなければならなかったのか。
そこに秘められた謎を探ることになる。
そこから物語は本格的に動き出していく。
そしてその謎を探るなか、騎士団長に姿を借りたイデアが顕れ、「私」を異界へと導いていく。
イデアについての考察は、騎士団長と「私」の間で何度か話されるが、その実態についてはよく分からない。
しかし禅問答のようなそのやりとりは、非常に興味深く面白い。
その騎士団長と会話ができるのは、「私」と「私」の絵の教え子であり、絵のモデルでもある13歳の少女、「秋川まりえ」だけである。
「秋川まりえ」は「私」が15歳のときに死んだ妹のことを思い出させるような少女である。
そして免色が、ひょっとすると自分の娘かもしれないと考えている少女でもある。
そのまりえが、ある日突然謎の失踪をする。
そこで「私」は、まりえを救出するため、騎士団長に促されるままに「メタファー通路」と呼ばれる闇のなかへと、足を踏み入れていく。
こうした展開は、これまでの小説のなかでも繰り返し描かれてきた、おなじみの展開である。
そこでは現実と異界の二重構造になっており、そこを行き交い、通り抜けることで、自分のなかの何かが変化し、ある着地点へと到達する。
それが、村上春樹の小説の構造になっている。
そしてこの小説での到達点は、「私」が「ユズに電話をかけて、君に一度会ってゆっくりと話がしたいんだと告げること」であり、まりえは「自分は自由なのだ。この足で歩いてどこにでも行けるのだ。」と考えたことである。
その結果「恩寵のひとつのかたちとして」大切なものを手渡され、物語は静かに終息していく。

上下巻合わせて千ページを超える長編ではあるが、途中ダレることなく読み続けた。
いやむしろ次々と起きる不思議の先を知りたいという気持ちに掻き立てられていった。
小説がもつミステリーの要素がそうさせるのである。
さらにクラシックやジャズやポップスなどの音楽や、文学、映画といったモチーフを散りばめることで、小説世界に彩りを添えていく。
そうしたいつも通りの手法が、さらに効果的な後押しとなっている。
また様々なクルマが登場するのも同様である。
主人公の「私」が乗るのは、埃まみれのカローラ・ワゴン、免色が乗るのは、ピカピカに磨き上げられた銀色のジャガージャガーXJ6、そして秋川笙子とまりえが乗るのは、ブルーのトヨタ・プリウス、雨田政彦が乗るのは、黒いボルボ、さらに私が妻と別れた後、北海道と東北をあてもなく旅した時に乗ったのが古いプジョー205である。
そしてその旅の途中で出会った謎の「白いスバル・フォレスターの男」といった具合である。
そのように村上春樹好みのアイテムで細部を埋め尽くしていくことで、独自の世界を構築していくのである。
それはまるで「言葉やロジックとしてではなく、ひとつの造型として、光と影の複合体として」把握しながら描く「私」の絵の作業のようでもある。
また雨田具彦が「自ら血を流し、肉を削るように」「精根を傾けて」「騎士団長殺し」という絵を描いたことにも重なってくる。
そこには村上春樹の小説を書くということの困難さや熱い思いが、込められているのではないか。
読み終わった後、ふとそんなことを考えたのである。


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