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My Life & My Favorite things

Category: 読書

Tags: 短編小説集  

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池澤夏樹「スティル・ライフ」

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中央公論新人賞および芥川賞を受賞した「スティル・ライフ」と、受賞第一作「ヤー・チャイカ」が収録された作品集である。
池澤夏樹の小説を読むのはこれが初めてだが、その存在には以前から関心があった。
それは彼の父親が高名な小説家、詩人、フランス文学者の福永武彦であるということ。
またかなりの読書家で、書評家、そして翻訳家、詩人、小説家で、古今の文学に深く通じた文学者であるということ。
過去にいくつか書評を読んだことがあるが、その慧眼には教えられることが多かった。
そうした文学的素養を生かして、世界文学全集を個人編集で出版したのが、数年前のこと。
続いて、日本文学全集の編集も行っている。
いずれも、これまでの全集にはなかった斬新な内容で、機会があれば読んでみたいと思っている。
そんなこんなで、気になる存在であった。
ただ小説を読むというところまではいかなかった。
ところが最近読んだ、山崎努の「柔らかな犀の角」のなかで、彼が池澤夏樹の熱烈なファンで、ほとんどの著作を読んでいると書かれてあった。
それを読んで、それほど惹かれる魅力とはいったい何なのか、それを知りたくて、この小説を読むことにしたのである。

この小説は、昭和62年に書かれたもの。
1945年(昭和20年)生まれなので、42歳の時。
最初に小説を書いたのは、これより4年前の「夏の朝の成層圏」、遅い小説家デビューである。
そのことについて、彼は次のように語っている。
「きっかけは福永が亡くなったことです。父がいる間はとても小説などを書くことは想像もしなかった。」
彼の母親は詩人の原條あき子、同人仲間であった福永武彦と1944年に結婚したが、5年後に離婚、その後再婚したが、池澤夏樹には福永武彦が実父だということは教えていなかった。
そのことを知ったのは、高校生になってから。
突然知らされた高名な父親の存在、その事実に複雑な感情を抱いたことは想像に難くない。
以来その存在が大きな壁となって立ちはだかった。
そんな複雑な経緯の影響が、彼を小説から遠ざけ、遅い小説家デビューとなったのである。

「スティル・ライフ」は、アルバイト先で知り合った男と「ぼく」の交流を描いたもの。ある日彼から奇妙な仕事を手伝うよう依頼される。「スティル・ライフ」とは静止画のこと。

「ヤー・チャイカ」は、高校生の娘とふたりだけで住む主人公が、イルクーツク出身のロシア人の男と偶然知り合い、そこから3人の交流が始まる。そしてその交流の間に、娘が語るファンタジックな話が差し挟まれる。ちなみに「ヤー・チャイカ」とは、人類初の女性宇宙飛行士テレシコワが、宇宙船から地球に送ったコール・サイン「私はカモメ」のこと。

どちらもこれといって特別なことが起きるわけではない。
偶然知り合った同士の、とりとめのない会話主体で話が進行していく。
しかしその会話の内容は、興味深いものばかり。
そして詩的で哲学的な文章によって、浮世離れした不思議な世界が展開されていく。
そういう点では村上春樹との共通性も感じるが、池澤の場合はそこに自然科学の要素が加味されていく。
彼が大学時代に専攻したという物理学を始めとした自然科学の知識が、文章に生かされており、独特の味わいを醸し出している。
それは例えば次のようなもの。

<ぼくはハトに気持を集中した。ハトがひどく単純な生物に見えはじめた。歩行のプログラム、彷徨的な進みかた、障害物に会った時の回避のパターン、食べ物の発見と接近と採餌のルーティーン、最後にその場を放棄して離陸するための食欲の満足度あるいは失望の限界あるいは危険の認知、飛行のプログラム、ホーミング。彼らの毎日はその程度の原理で充分まかなうことができる。 そういうことがハトの頭脳の表層にある。
しかし、その下には数千万年分のハト属の経験と履歴が分子レベルで記憶されている。ぼくの目の前にいるハトは、数千万年の延々たる時空を飛ぶ永遠のハトの代表にすぎない。ハトの灰色の輪郭はそのまま透明なタイム・マシンの窓となる。長い長い時の回廊のずっと奥にジュラ紀の青い空がキラキラと輝いて見えた。>(スティル・ライフ)

<まわりにまったく何もないというのはどんな気持ちがするものなのか、と想像する。そういう擬人法に依らなくては、人は遠方に送った機械と自分の意識をつなぐことができない。かじかんだ足の指がまだ自分に所属することを確かめようと、ちょっとだけ動かしてみるようなものだ。小惑星の向こうを飛ぶ探査装置が自分たちの世界に所属することを確認するために、自分をその場所に置かれた目と考えて、見える光景を想像し、物質がないという寂寞を想像する。そういう誘惑を感じている人間がたくさんいる。>(ヤー・チャイカ)

こうした思念や描写が、現実世界と行きつ戻りつ、そして融合しながら、科学的美しさをもった小説世界を形作っていくのである。
これ1冊では、まだまだその魅力を解明できたということにはならないが、その一端に触れることはできたように思っている。
これをきっかけに、またもう少しその世界を覗いてみたいなと考えている。


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テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌

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