風に吹かれて

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Category: 読書

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東山彰良「流」

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この小説を読んで最初に思ったことは、これは台湾版「けんかえれじい」ではないかということである。
「けんかえれじい」は、ケンカに明け暮れた旧姓高校生の姿を描いた青春映画の傑作で、日活時代の鈴木清順監督の代表作である。
高橋英樹演ずる旧姓高校生のケンカ行脚が、岡山と会津を舞台に痛快に描かれるが、こちらの小説は台湾が舞台である。
主人公は両親、祖父母、叔父、叔母たちと台北で暮らす葉秋生。
祖父母は中国山東省の出身で、中国での内戦を生き延び、国民党とともに台湾に渡って来た「外省人」である。
物語は国民党を率いた蒋介石が死んだ1975年から始まる。
この年、祖父の葉尊麟が何者か殺される。
犯人は見つからないが、怨恨による犯行ではないかと推測される。
祖父の葉尊麟には内戦時代、数多くの共産党の人間を殺したという過去がある。
その恨みをかっての犯行ではないかというのが、大方の見方だが、定かではない。
自分を可愛がってくれた祖父の死は、秋生の深い傷となって残るが、17歳の秋生にはどうすることもできず、ケンカに明け暮れる日々である。
以来10年の歳月をかけて事件の真相を追っていくことになるが、そのなかで内戦時代の祖父のことや家族の歴史を深く知るようになっていくのである。
ミステリーの要素はあるが、なによりもこれは秋生の成長を描いた青春物語であり、家族の姿を通して描いた台湾の現代史でもある。
そこから伝わってくる中国人たちの熱量の大きさには圧倒される。
それをしっかりと支えているのが作者の勢いと大胆さのある文章である。
白髪三千丈の中国の伝統と歴史を彷彿させるものがある。

ところでこの小説を読むうえで、手がかりになったのは、「童年往事 時の流れ」「恋恋風塵」や「悲情城市」といった侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の映画である。
侯孝賢もこの小説の主人公同様、「外省人」の子である。
そしてこれらの映画で、同じ時代を生きる家族の姿を描き続けている。
そうした映像を通して覚えた台湾のリアルな生活風景が、小説を読んでいるうちに浮かび上がり、大いに助けになった。
複雑な歴史的背景をもった台湾、そこで暮らす個性的な人々の生命力溢れる物語に、小説を読む醍醐味を深く味わった。

著者の東山彰良は台湾生まれの中国人である。
5歳まで台北市で過ごした後、日本に移住、両国を行き来しながら育った。
そんな経歴の持ち主である彼が、自身の家族をモデルに、自らのルーツを探ろうとしたのがこの小説である。
ところでこうした出自は、先日ノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロとも似ている。
このような経歴を持った人間にとって、自らのアイデンティティを知るということは、何よりも大きなテーマなのであろう。
そんなことをふと思った。

第153回(2015年上半期)直木賞受賞作品。


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