風に吹かれて

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Category: 読書

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篠原勝之「骨風」

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クマさんことゲージツ家の篠原勝之氏の書いた短編小説集である。
こうやってブログで小説の感想を書く時、通常は著者名に敬称はつけないが、クマさんの場合はどうしても「篠原勝之氏」と敬称をつけずにはいられない。
それはクマさんがFacebookでの知り合いだからである。
Facebookでクマさんの生活の様子などを見ているうちに、いつしか彼が近しい知人であるかのような気持ちになっているからである。
だからといって彼のことを詳しく知っているわけではない。
未だに謎を秘めた人という印象が強く、その実態は曖昧なままである。
最近はあまり見かけなくなったが、以前はテレビなどに出ているのを見て、その個性的な外見や人となりに惹かれていた。
それ以前は状況劇場のポスターに、インパクトある絵を描く画家として、そして最近は鉄や石、ガラスといった素材を使ってオブジェを創作するゲージツ家としての認識であった。
その程度の知識しかなかったが、今回この小説を読んでいろいろと新しい発見をした。
そしてますますその個性的な世界に惹かれていったのである。

この短編集は2013年から14年にかけて「文学界」に書いた5篇に、書下ろし3篇を加えたものである。
ほぼ実体験に基づいて書かれているようだが、そこはやはり小説である、虚実入り混じっているわけで、それのどこまでが本当で、どこまでが虚構なのか、そんなことを考えながら読むのも面白い。

クマさんは1942年、北海道札幌市生まれの室蘭市育ちである。
父親は元警察官、応召されて満州へ赴き、復員後は室蘭の製鉄所で工員となった。
クマさんは生後まもなくジフテリアに罹り、生死の間をさ迷ったが何とか助かった。
しかしその結果、嗅覚と左耳の聴覚を失ってしまったのである。
その影響からか学校でも家のなかでも、ボーっとして空ばかり見上げているような子供であった。
加えて生来の意気地の無さから、よくいじめられていたそうである。
屯田兵だった母方の祖父は、相撲大会で優勝するほどの人で、その祖父ゆずりの骨太な体躯をしていたにもかかわらずである。
今では考えられないことである。
また家では終始不機嫌な父親から毎日のように殴られていた。
そのため恐ろしさから顔もまともに見ることができなかった。
この当時のことはインタビューで答えており、それによると「復員したオヤジは、ぼーっとした長男に腹が立ったんだろうな。『鬼かよ』と思うほど殴られた。創作部分もあるけど、オヤジの暴力は全部、本当。」と言っている。
その激しい暴力に長年耐えてきたが、17歳の時とうとう家を飛び出してしまった。
そして時が過ぎ、30数年ぶりに母親から電話がかかってきた。
父親が臨終でもう長くはないというのだ。
来てくれないかとの頼みに、気が進まないまま会いに行く。
そして植物状態になった父親の臨終に立ち会うことになるのである。
その顛末を書いたのが、表題作の「骨風」である。
<殺すことより逃げる事を選んで、三十数年逃げ切ったはずだったのに、その父親が目の前に枯れ木のように横たわっている。過ぎ去っていった時間に目眩がした。>
父親に対する複雑な思いが切なく胸に迫ってくる。

続く「矩形(くけい)と玉」「花喰い」「鹿が転ぶ」「蠅ダマシ」「風の玉子」では上京後のことや現在の暮らしを題材に、そして最後の「今日は、はればれ」「影踏み」では認知症になった母親と、弟との複雑な関係とその最期について書いている。
そのなかで出会う動物や知人や家族の死や病、それらがぶっきらぼうで飾り気のない文体で書かれていく。
そこに甘い感傷はなく、あるのはあくまでも醒めた強い視線だけ。
時にユーモアが交じる。
そして死についての様々な言葉が挟み込まれる。
たとえばそれは、遊び仲間で師匠でもあった深沢七郎の「人が死ぬことは、清掃事業だから、喜んでいいことだ」といった言葉や、母親の「死んだらみんなおんなじだもの。」といった言葉である。
単純であっけらかんとしたこうした言葉に心動かされる。
そして「諸行無常」とか「万物は流転する」といった言葉が、ごく自然に浮かんでくる。

クマさんの自由で気楽な印象から、世間的なしがらみとは無縁のように見えるが、実はそうしたしがらみが断ちがたく、いつまでもついて回っている。
そうしたものから逃れることが、自分らしく生きるための彼らしいやり方であったということがよく分かる。
そして17歳で家を出るとき、母親から言われた「アンタは泣き虫だから、悲しくなったら手を動かすんだよ」という言葉を守るかのように、今でもせっせと手を動かしてゲージツ活動に勤しんでいるのである。

この小説は第43回泉鏡花文学賞の受賞作である。
そしてこちらもFacebookでの知り合いである劇団「新転位・21」の山崎哲氏によって劇化されている。


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