風に吹かれて

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Category: 読書

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桜木紫乃「ラブレス」

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これまで読んできた桜木紫乃の小説は、すべてが短編もしくは連作短編であったが、5冊目にして初の長編である。
この小説は第146回の直木賞の候補作であり、第19回島清恋愛文学賞受賞作品でもある。

物語は北海道標茶町(しべちゃちょう)の貧しい開拓村に生まれた、杉山百合江という女性の波乱の人生を描いたものである。
百合江が育った開拓小屋は、酒に溺れた父親が暴力で支配する家であった。
文盲の母親はその暴力にひたすら黙って耐えるだけである。
そうした家族のもとに、生まれてすぐ親戚の家に預けられた妹の里実が帰ってくる。
昭和25年、百合江15歳、里実11歳のときであった。
そしてその潤いのない家庭のなかで、妹の里実が百合江の唯一の味方になっていく。
しかしそれもつかの間、高校進学を夢見ていた百合江は、父親の借金のかたに無理やり奉公に出されることになってしまう。
そこから百合江の流浪の人生が始まる。
勤め先の薬局を飛び出した後は、得意の歌で生きていこうと歌芝居の一座に入り、各地を転々とする根無し草の生活を続ける。
そして昭和35年、百合江25歳のときに一座は解散、一座の女形でギター弾きの宗太郎とふたりで「流し」となって各地のネオン街をさすらうようになる。
さらにクラブ歌手などいくつか職業を変え、また宗太郎とも別れるなど、波乱万丈の生活が続いていく。
いっぽう妹の里実は、中学を出ると床屋に弟子入り、そこで腕を磨いた後釧路の理容室に移り、腕の確かな理容師となる。
そしてその腕を店主に見込まれた彼女は跡取り息子の嫁になり、やがて店をひとりで切り盛りするやり手の女主人となっていく。

その日暮しの生活で安定しない姉と、姉とつかず離れず支え続けるしっかり者の妹、対照的なふたりだが、どちらも懸命に生きていく。
そしてさまざまな人間たちが通り過ぎていく。
それとともに訪れる試練の数々。
そうした人生の足跡が情感豊かに描かれていく。

こうやって桜木紫乃の小説を読んできて思うことは、月並みな言い方になるが、やはり女の強さということだ。
どんなひどい目に遭おうとも、けっしてめげないしなやかさ。
どんなものも受け入れようとする柔らかな心。
そうしたものは、男には見られないものである。
女ならではの強さである。
そしてその底に流れる切なさ悲しさは、自分の人生を精いっぱい生き切ったことに対する讃歌の涙なのかもしれない。
そんなことをふと思ったのである。

ところで桜木紫乃は開拓三世で、百合江たちが暮らしていた開拓小屋は、彼女の祖母が住んでいた小屋がモデルということだ。
そういえば、小説の中で百合江の娘、理恵は小説家という設定になっている。
新人賞をとり、ひと月かふた月に一度のペースで小説を書き、そろそろ二冊目の本が出るというまだまだ無名の小説家の卵である。
おそらく桜木紫乃自身がモデルなのであろう。
小説の終盤、祖母の死後に祖母たち一家が住んでいたという開拓小屋を、従姉の小夜子とふたりで訪れる場面がある。
そこで彼女は小夜子に向かって次のように言う。

「わたしさ、おばあちゃんがここで生きてきたことを書きたいの。ここで死ねなかったことも、ちゃんと書いておいてあげたいの。おばあちゃんがどこからきて、何を残したのかを、誰かに知ってほしい。」

そして次のような文章が続く。

< 理恵には開拓者の血が流れている。小夜子にはないものだ。その血は祖母から百合江へと受け継がれ、生まれた場所で骨になることにさほどの執着心を持たせない。それでいて今いる場所を否定も肯定もしない。どこへ向かうのも、風のなすままだ。理恵が祖母と心を通わせることができたのも、開拓者の気質を受け継いでいるせいなのだろう。からりと明るく次の場所に向かい、あっさりと昨日を捨てることができる。捨てた昨日を、決して惜しんだりはしない。 >

こうやって親から子へ、そして孫へと女たちの思いが受け継がれていく。
そこに女たちの強さとともに、絶えることのない人間の繋がりの強さや希望といったものを感じるのである。


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