風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 短編小説集  

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桜木紫乃「起終点駅」

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「かたちないもの」「海鳥の行方」「起終点駅」「スクラップ・ロード」「たたかいにやぶれて咲けよ」「潮風の家」の6篇の短編が収められている。
「海鳥の行方」と「たたかいにやぶれて咲けよ」は連作だが、他の4編はそれぞれ独立した短編になっている。
表題作「起終点駅」は先日観た映画の原作である。
読んでみるとラストが少し違っているだけで、ほぼ原作通りに映画化されていることが分かった。
映画を思い出しながら読んだ。

それ以外で印象に残ったのは、「たたかいにやぶれて咲けよ」と「潮風の家」の2編である。
「たたかいにやぶれて咲けよ」は道報新聞の記者、山岸里和が取材した歌人中田ミツについての話である。
「恋多き歌人」といわれ、全国的にも名が知られた82歳の歌人中田ミツが、特養老人ホームで余生を過ごしている。
そのことに興味を持った山岸里和はインタビューを申し込むが、こてんぱんにやりこめられ、記事にできないまま終わってしまう。
そのとき彼女から言われたのは「記事にするなら、わたしが死んでからになさい。」
その中田ミツが亡くなった。
知らせを受けた山岸里和は、追悼記事を書くために再び取材を始める。
その取材のなかで中田ミツの在りし日の姿が浮かび上がってくる。
ミステリーのような展開と中田ミツの特異な人物像が面白い。
そして彼女の人生を知ったことで、生き方に迷っていた山岸里和の胸に確かな覚悟が芽生えてくる。
題名は中田ミツの詠んだ「たたかいにやぶれて咲けよひまわりの種をやどしてをんなを歩く」という歌からとっている。

「潮風の家」は北海道西北部にある小さな漁村、天塩町を舞台にした物語。
30年ぶりに久保田千鶴子が故郷の天塩町に帰ってくる。
両親と弟の墓の永代供養をするためで、帰る家のない彼女が頼ったのは、亡くなった母親のたったひとりの友人、たみ子であった。
浜のあばら家にひとりで住むたみ子は85歳になる。
彼女は若い頃家族のために吉原で女郎として働いていたことがある。
家族の生活を支えるための身売りであったが、両親が亡くなった後、故郷に帰ってきた。
だが帰郷と同時に妹弟は町を出てしまい、<「赤線あがり」という言葉と彼女だけがこの町に残された>
いっぽう千鶴子が故郷を出たのは、弟が強盗殺人事件を犯し、拘留中に自殺をしたためであった。
その時たみ子は千鶴子に1万円を握らせ、すぐに町を出て行くようにと諭したのである。
そのまま町に留まると、自分と同じように千鶴子もまた蔑みと好奇の目に晒されると考えたからであった。
そして時間が流れ、30年ぶりにふたりは再会したのである。
千鶴子は故郷を出た後、水商売の世界で生きてきた。
そして2度の結婚にも失敗した。
そんな千鶴子にたみ子は言う。

「売れるもん売ってなぁにが悪い。ワシもお前のおっ母さんも、みんな同じだ。泥棒してきたわけでもねぇ。あるもん売ったんだべよ。金でなくたって、なんかもらったら同じだ。そんなことしたことねぇ女がどこの世界にいるってよ、千鶴子。体は壊さなけりゃ好きに使えや」

「ワシの父親は津軽からひとりで流れてきた漁師だったんだ。次男坊だから船もなくてよ。もう二度と故郷には戻らんつもりでこっちさ来たんだべ。ニシン場にくれば景気もええべと思ったらしいが、結局船のひとつも持てんかった。毎日必死で生きてても、人間どうにもならんことがある。ワシはそんなことを生まれながらに知ってたような気がする。だからワシらに身寄りがないこと、誰も気の毒がるひつようなんかねぇんだわ。みんな親兄弟捨ててきた人間の子や孫なんだからよ。」

「体はええよ、減らんもの。東京じゃええことなんかひとっつもなかったけど、田舎に戻って自分が送った金で家が建ってたのを見たときは、なんか誇らしく思えたな。ワシは吉原にいたときがいちばん親孝行できたんだ。この家と自分の過去を捨てたら、なんだかワシのたったひとつの孝行もなくなるような気がしてなんねぇのよ」

そして別れぎわに「これはお前が焼くなりなんなり、うまいこと処分してくれんべか」といって古ぼけた冊子を渡された。
それは『新吉原女子保険組合 機関紙 婦人新風』という冊子で、その文芸欄に、ひらがなしか読み書きできないたみ子の書いた「ニシン場の娘が吉原に売られて、朋輩から魚くさいと馬鹿にされている、といった内容から始まる」詩が掲載されていた。

だれもうらまず わらってはたらく
いもうと おとうとに あったかいめしをくわせ
かあちゃんに かくまきを
とうちゃんには あったかいくつしたを
かってあげるんだ
まいにち わらってはたらいているうちに
とうちゃんも かちゃんも しにました
わたしはもう にしんのにおいがしません

暗く悲惨な小説なのに、何でこうも桜木紫乃の小説に惹かれてしまうのか。
普通こうした種類の小説の場合、次第に読むのが辛くなるものだが、桜木紫乃の小説はそうではない。
逆にもっともっと読みたくなってくる。
このあともまた続けて読もうと、もうすでに図書館から何冊か借りて用意している。
まだしばらくは桜木紫乃の小説との付き合いが続くことになる。


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年齢:今年(2008年)還暦です。
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