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Category: 読書

Tags: 桜木紫乃  短編小説集  

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桜木紫乃「氷平線」

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川本三郎の「物語の向こうに時代が見える」のなかで、

< 桜木紫乃の第一作品集「氷平線」をはじめて読んだ時の新鮮な驚き、感動は強いものがあった。北海道の寒々とした風景にも、確かに、子供の自分が見た風景とつながるものがあった。
 年齢から言って新しい作家のものを読むのはもう無理とあきらめていた時に、桜木紫乃の作品に出会って、現代の小説に引き戻された。 >

と書いており、この評論集のなかで彼女についての評論を3つも書いている。
他の作家はすべてひとつだけというなかにあって、これは異例のこと。
いかに彼女の作品に肩入れしているかが窺える。
桜木紫乃の小説は読んだことがないが、これを読むと興味を持たざるをえなくなる。
どこがそれほど惹きつけるのか、さっそく「氷平線」を読んでみた。

収録されているのは、「雪虫」「霧繭」「夏の稜線」「海に帰る」「水の棺」「氷平線」の6篇。
いずれも北海道オホーツク海沿いの町を舞台にした物語である。
釧路市生まれの作者にとっては地元である。
この短編集について、出版元である文芸春秋社の担当編集者は次のように書いている。

< 桜木作品の読みどころはふたつ。ひとつは、北海道の道東を舞台とし、普通の田舎町とは一味違う渇いた閉塞感を見事に描いていること。もうひとつは、北の大地の生活感あふれる性を描いていること。跡継ぎを作る重圧、ムラの男に身体を売って生活する女性、フィリピンから嫁として買われた少女、牧草の上での性行為など、『楢山節考』を髣髴させるような、陰々とした中にもある種の明るさと諦念が漂う北の大地の現実が活写されている。 >

さらに川本三郎は
< 寂れ、すたれてゆく町。しかし、桜木紫乃は決してその町を、そこに住む人々を見捨てない。彼らのいまをクールに距離を取りながら、しかし、あくまでも切実にとらえてゆく。「氷平線」「雪虫」「凍原」と寒々とした言葉がこの作家を通して身近に思えてくる。 >

そして
< 主人公の多くは格差社会の現代の片隅に生きている。華やかな表通りから一歩奥に入った裏通りでひっそりと生きている。桜木紫乃はそうした人間たちこそを主人公にする。 >

印象に残ったのは冒頭の「雪虫」。
これがデビュー作であり、オール讀物新人賞受賞作でもある。
嫁の来てのない息子のためにと、父親が強引に話を進め、やって来たフィリピン人の18歳の少女。
今は人妻となっている幼馴染の恋人との束の間の逢瀬を続けている男にとって、強引にお膳立てされただけのフィリピン人妻の存在は煩わしいだけである。
いつまでも無視し続けるが、生きるために買われてきた中学生のようなフィリピーナの嫁マリーと暮らすうち、「自分しか頼る人間のいない場所で、少女が不幸になるのだけは嫌だと思った。」
そして「出来る限りマリーが幸福であることを祈」るようになってゆく。
逃れようがなく先の見通せない生活のなかで、次第に少女に心を寄せるようになる姿が、確かな表現によって刻み込まれてゆく。
切ない中にも人と人との出会いや結びつきの不思議さ、やるせなさを、しみじみと感じた。
そして川本三郎が惹かれる理由の一端を、少しだけ垣間見ることができたような気がしたのである。


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