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水村美苗「本格小説 上・下」

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「私小説 from left to right」に続いて読んだ、水村美苗の小説「本格小説」。
それにしても何という題名だろう。
「私小説」に続いて「本格小説」とは。
なるほど今回の小説は、確かに本格的な小説というのに相応しい内容の小説である。
エミリー・ブロンテの「嵐が丘」を戦後の日本に置き換えて書いたといわれるだけあって、いかにも劇的な展開を見せる小説になっている。
波乱の人生を生きる「東太郎」なる人物が「嵐が丘」のヒースクリフであり、彼とともに幼少期を過ごし、後に恋愛関係に陥ることになる「よう子」はキャサリンである。
そして「よう子」の夫である「重光家」の「雅之」が、エドガーということになる。
そこによう子の一族である「三枝家」の三姉妹や、三姉妹のひとり夏絵の嫁ぎ先「宇田川家」の人々が絡んで物語が展開していく。
終戦直後から高度成長、バブル、そしてバブル崩壊へと至る時代が背景となっており、そのなかでそれぞれの栄光や没落が語られていくことになるのだが、その語り手となるのが作者、水村美苗自身と「宇田川家」の女中「土屋富美子」、そして作者がこの物語を書くきっかけを作ることになった出版社の編集人である青年・祐介の3人である。
まず導入部で語られるのが、「私小説 from left to right」で書かれたアメリカでの生活のなかに突然現れた若き日の「東太郎」の話である。
彼は当初は知り合いのアメリカ人に雇われたお抱え運転手であったが、事情があって父親の勤める会社に現地採用されることになる。
そこで見る間に頭角を現し、目まぐるしい出世を遂げることになる。
そしてついには伝説的な大富豪へとのし上がっていくのである。
彼には複雑な過去が隠されているようだが、それは謎のまま作者の前から姿を消す。
これが導入部。
そして何年かが過ぎ、出版社の編集者が作者の前に現れ、偶然のきっかけから女中の土屋富美子と東太郎と知り合った経緯を話し出したことから物語は動き始める。
さらにその語り手が女中の富美子へと引き継がれ、過去へと遡っていくことで、東太郎の過酷な少年時代とそれに関わることになった大勢の人々の全貌が明らかになっていくのである。
なるほど「本格小説」の名にふさわしい骨太なドラマである。
ピカレスク・ロマンを思わせる東太郎の出世物語であり、彼とよう子の悲恋物語である。
そして「三枝家」「宇田川家」「重光家」といった昭和の上流階級の栄光と没落の物語でもあり、それに重ねた日本の戦後史でもある。
しかし読み進めていくうちに、ひょっとするとこれはそうした物語を背景に、土屋富美子という女性の半生を描こうとしたのではないかと思うようになった。
そうした多くの要素をもったこの「本格小説」のどの部分に惹かれるかによって、この小説は異なった表情を見せるのである。
時間を忘れて読み耽った。
そしてこのような小説を書いた水村美苗という作家に対して、ますます深い関心を持つようになったのである。


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