風に吹かれて

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水村美苗「私小説 from left to right」

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副題にある「from left to right」とはいったい何か?
読む前に感じた疑問であるが、これはこの小説が横書きで書かれていることによるもの。
なぜ横書きかといえば、文章に頻繁に英文が挿入されるからである。
すなわちこれは十代から三十代までをアメリカで過ごした日本人女性の物語なのである。
さらに「私小説」とあるように、作者自身の体験に基づいた小説でもある。
そこでまずは水村美苗のプロフィールから。

1951年東京生まれ。
12歳のとき、父親の仕事の関係でアメリカに渡る。
ボストン美術学校、イェール大学フランス文学部を経て、イェール大学大学院仏文科博士課程を修了。
その後プリンストン大学で講師、ミシガン大学とスタンフォード大学で客員教授として近代日本文学を教える傍ら、小説を書き始める。
最初の小説は夏目漱石の未完の小説『明暗』の続きを書いた『續明暗』である。
そしてこれが1990年の芸術選奨新人賞を受賞。
続く『私小説 from left to right』で、1995年野間文芸新人賞を受賞。
さらにエミリー・ブロンテの『嵐が丘』を戦後日本に書き換えた『本格小説』で、2003年読売文学賞を受賞。
また次の『新聞小説 母の遺産』では2012年大佛次郎賞を受賞と、書いた小説すべてが賞を受けている。
そして2009年には評論『日本語が亡びるとき』でも小林秀雄賞を受賞するなど、輝かしい経歴を残している。
しかしそこに至るまでの生活は、けっして華々しいものではなく、孤独の中で悶々と悩める日々であった。
そうした生活を書いたのが、この小説である。

大学近くのアパートで一人で住む私が、雪の降る寒い夜、ニューヨークに住む彫刻家の姉に電話をかけ、お互いの傷を舐め合うように長電話をする。
そのなかで、記憶を蘇らせながらアメリカでの20年の生活を思い起こしていく。
そこで語られる家族の姿や家庭崩壊といった問題。
さらには日本とアメリカの間で、いったい自分は何者なのかと思い悩むアイデンティティの問題などが深い孤独とともに時に深く、時に軽やかに語られていく。
取り立てて劇的というわけではなく、起伏の少ないストーリーではあるが、辛辣で皮肉のきいた語り口には、ぐいぐいと読ませる力強さがある。
いつまでもアメリカの生活に馴染めず、漱石や一葉などの近代日本文学を読み耽ったという作者の文学的蓄積を感じる。
また過去の記憶をたどりながら、時空間を自在に行き来する展開を読んでいると、水村美苗自身が卒論に選んだというプルーストの『失われた時を求めて』の影響を見ることができる。
最初は英文まじりの文章にいささか抵抗があったが、読み慣れてくるにしたがって気にならなくなった。
そして久しぶりに本格的な文学を味わったという満足感に浸ったのである。
こういう傑作が知らずにまだ眠っていたという感慨とともに、それに出会った幸運を、心から悦びたいと思う。


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