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西川美和「永い言い訳」

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一時期、映画界で異業種監督というのがブームになったことがある。
北野武をはじめ、村上龍、桑田佳祐、小田和正、石井竜也といった映画にはまったくシロートの作家や芸能人たちに、監督をやらせるというもの。
これと似たような形で異業種小説家とでも呼びたい人たちを、最近よく目にするようになった。
先頃芥川賞受賞で話題になったお笑いの又吉直樹をはじめ、劇団ひとり、歌手のさだまさしや谷村新司、さらにはサブカル界のリリー・フランキー(今では異業種俳優)といった人たちである。
なかには一発屋として終わった者もいるが、高い評価を得た者もいる。
玉石混交さまざまだが、そうした中にこの本の著者、西川美和がいる。
ゆれる」、「ディア・ドクター」、「夢売るふたり」などの映画監督である。
ただし彼女の場合は、映画で評価を得るようになる以前から、すでに小説は書き始めており、映画監督としての足跡と小説家としての筆歴はほぼ同時進行であった。
そこが他の異業種小説家とはいくぶん違っているところである。

彼女が小説を書いているということは、以前から知っていた。
代表作である映画「ゆれる」も、小説として発表されている。
しかし監督としての才能は認めるものの、果たしてジャンルの違う小説となると、果たしてどの程度の小説を書くのかという疑いが生じ、どうしても読む気にはなれなかった。
小説を読んで、それがもし期待を裏切るようなものであったとしたなら、映画監督としての彼女の華々しいキャリアに対する見方に、いささか微妙な変化が生まれるのではないか、そんな危惧から彼女の小説を読むことに積極的にはなれなかったのである。
ところがこの小説を評価する書評をたまたま読んだことから、試しにいちど読んでみようという気になったのである。
そして映画同様の才能を、小説の世界でも発揮していることを知ったのである。
これはそんなマルチな才能を持った彼女の最新作であり、直木賞の候補にもなった小説である。

主人公は、衣笠幸夫、かつてのプロ野球の名選手、衣笠幸雄と同じ読み方をする名前をもった男である。
職業は作家、筆名は、津村啓。
若くして作家となったものの、芽が出ず、学生時代に知り合い結婚した妻に、10年以上にわたって経済的に頼るという生活を余儀なくされていた。
そしてようやく職業作家として自立できるようになったが、妻との関係は冷え切ったものになってしまった。
そんな折、妻が親友といっしょに出かけたスキー旅行で、バス事故によって亡くなったしまう。
妻の親友にはトラック運転手をしている夫と、小学6年生の息子と4歳になる娘がいる。
その残された家族とひとりになってしまった幸夫との奇妙な交流がそこから始まる。
その交流のなかで彼らが何を感じ、どう変化していくか、それを書いたのが、この小説である。
そしてそれを読むことで、家族とは、愛するとは、そして人生とは?といった様々なことを考えさせられていくのである。

主人公の衣笠幸夫は小説家ではあるが、けっして出来た人間ではない。
いや、むしろ女々しく浅はかさで自分勝手な人物として描かれている。
しかしそれでいて読んでいるうちに次第に親近感を覚えるようになっていく。
それは自分の中にもある愚かさと共鳴する部分があるためではないか。
苛立ちながらも次第に共感してしまう自分がいる。
またそれと対照的な人物である、妻の親友の夫、大宮陽一を配することで、それがより鮮明に浮き彫りにされてくる。
さらに子供たちとの交流によって、彼らの変化によりいっそう拍車がかかり、縺れた糸が次第にほどけていくようになっていく。
そうした仕掛けや人物造型がなかなかうまい。
長年にわたって映画や小説を作り続けてきたことで培われてきた技であろう。
そうした創作活動の中で、人生や人間について深く考え続けてきた賜物に違いない。
人間を見つめる確かな目や深い洞察を感じるのである。
最後は不覚にも涙を流してしまった。
そしていい小説を読んだな、という清々しい余韻に浸ったのである。

この小説は彼女によって映画化され、現在上映中である。
「夢売るふたり」以来4年ぶりとなる映画である。
また映画化にあたっては、『映画「永い言い訳」にまつわるXについて』という本も出版されている。

それを観ること、読むことが楽しみになってきた。


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