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Category: 落語

Tags: エッセイ・評論  古今亭志ん朝  

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三人噺 志ん生・馬生・志ん朝

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著者の美濃部美津子さんは、古今亭志ん生の長女、金原亭馬生と古今亭志ん朝のお姉さんです。
この本は彼女からの聞き書きによる志ん生一家の半生記です。
有名な「なめくじ長屋」での貧乏生活から、3人が亡くなるまでの貴重なエピソードが満載で、笑いあり、涙ありの内容に、落語好きのみならず、落語に興味のない人でも思いっきり楽しめる本です。
落語の世界に登場しそうな貧乏生活も、母親(志ん生のおかみさん)が内職で支え、それを著者が手助けをして、家族がお互いに助け合いながら凌いでいく様子は、まるで極上の落語を聞いているような面白さ。
「安普請の狭い家だろうが、蚊やなめくじがいようが、住んじゃうと何でもなくなっちゃうんですよ。ちっとも悲惨に思いませんでした」
天衣無縫の志ん生と、しっかり者のおかみさんの取り合わせは落語の世界そのもの。
おかみさんが志ん生と別れなかったのは、「この人は何もできないし、酒は飲む、博打はするでしょうがないけれども、芸だけは一生懸命やってっから、先行き必ず売れる」と思っていたからだそうです。

志ん生の面白いエピソードをひとつ。

あるとき、部屋から池をボーッと眺めてたお父さんが、志ん五(弟子)を呼んだんですって。
 「何ですか」って行ってみたら ―。
 「池の側んとこに、おまえ、鳩が止まってるだろ」
 「はぁ。珍しい色ですね、あの羽。何色っていうんですかね、あれは」
 「そんなこたぁ、どうでもいんだよ。俺、さっきっから見てんだけども、あすこから一時間も、動かねえんだよ。何考えてっかわかるか、おまえ」
 「鳩がですか? さあ、何考えてんでしょうね」
 「ひょっとすると、身投げだ」

でね、この話を志ん五さんが馬生にしたらしいんです。そしたら馬生が、
「他人はね、『お宅のお父さん、面白い人ですね』って言うけれども、家族の身になってみろよ。おまえ、あの寅さんて知ってるだろ。映画の寅さん。俺、あの寅さんの家族の気持ちがよぉくわかんだよ。本人はそりゃ、いいよ。好き勝手なことしてんだから。けど、家族は大変なんだ」


志ん生の天衣無縫さはともかく、馬生の複雑な心境は手に取るように分かります。
志ん生の尻拭いをしたり、父親の代わりに家族を支えたりといった、それなりの苦労を積んできたようです。
馬生の落語がじっくりとした味わいがあるのも、こういった経験の積み重ねがあったからこそなのでしょうね。
いっぽう志ん朝は遅れて生まれた末っ子ということで、そうとうに可愛がられたようで、それが志ん朝の明るく華やかな芸質を作り上げているようです。
著者とは20以上も歳が離れていることもあって、母親代わりで志ん朝を育てたそうです。
その母親代わりのお姉さんのために、志ん朝は家を建て直した際に、お姉さん用の部屋も用意したそうです。
親孝行(姉孝行)のつもりだったのでしょうね。

最後に馬生と志ん朝の芸について著者が話した部分を書き抜いておきます。

 馬生は、後年のお父さんの芸風を見てて、自分にはあれだけの華とか自由奔放さはないとわかっていた。だから志ん生とは違った方向を目指して、真面目にキッチリとした噺をしていく道を選んだんだと思います。たとえていうならば、文楽さんや円生さん、彦六さんのような系統なんです。
 ---馬生元来の性格もあったんでしょうけど、耐え忍びつつ穏やかに毎日を生きる人たちの噺ってのが肌にあってたんでしょうね。だから馬生のお客さんも「ジックリと聞きたい」って人が、ちゃんとついてたんですよ。パッと盛り上がるという人気じゃなかったけれど、じわじわと広がっていくって感じでした。
 もっと長生きできていたら芸に渋みが増して、お父さんの噺とはまた違った味が出たと思いますねえ。

 志ん朝の場合は、明るくて派手なしゃべり口調はお父さんの系統ですよ。志ん朝の芸風を「完璧な文楽型を目指した」と言ってる人がいるらしいんですが、あたしはちょっと違うんじゃないかと思っているんです。確かに噺としては完璧でしたが、その日の気分によってくすぐりの入れ方が違ったり、いい加減というかフラ(持って産まれた個性や味)のいいところはお父さんと同し。志ん朝は文楽さん的なキッチリとした部分と、お父さんの雰囲気を混ぜるつもりでいたんじゃないでしょうか。


著者は母親を含めて4人とも見送ったのですが、それぞれの臨終の場面は読んでいて胸に迫るものがありました。

これを書いているうちに、三人の落語が無性に聴きたくなってしまいました。

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テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌

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