風に吹かれて

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Tags: エッセイ・評論  

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岡崎武志「上京する文學」

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副題に「漱石から春樹まで」とある。
「上京」という切り口で、近代から現代に至る数々の文学作品を考察した本である。
採り上げられた作家は18人、登場順に書くと、斎藤茂吉(山形)、山本有三(栃木)、石川啄木(岩手)、夏目漱石、山本周五郎(山梨)、菊池寛(香川)、室生犀星(石川)、江戸川乱歩(三重)、宮沢賢治(岩手)、川端康成(大阪)、林芙美子(山口)、太宰治(青森)、向田邦子、五木寛之(福岡)、井上ひさし(山形)、松本清張(福岡)、寺山修司(青森)、村上春樹(京都)となる。
このうち漱石と向田邦子は東京生まれであるが、漱石には『三四郎』という上京小説があること、また向田邦子は父親の仕事の関係で幼くして東京を離れていたことから、採り上げられている。
ちなみにこのふたりを除いた16人を地域別に見てみると、東北6人、中部1人、関東2人、近畿3人、中国四国2人、九州2人である。
東北が圧倒的に多い。

こうした作家たちの顔ぶれを見ていると、近代以降の文芸の世界で、上京組がいかに重要な役割を果たしているかがよく分かる。
同時に東京という街が上京組にとって、どんなに憧れと魅力に溢れた街であったかということも。
期待と不安を抱えて上京、自由を味わいながら文学と格闘する彼らの姿を見るうちに、かつての自分のことがダブって見えてきた。
大学入学のために上京したのは、1996年。
井上ひさしが宮澤賢治について「自分の可能性は東京に出たらあると思っていたふしがある。」と書いているように、自分もそうしたことを漠然と考えながら上京したことを思い出した。
そして期待と不安のなか、東京と云う街に懸命に馴染もうとする日々があったことも。
その一番の障壁になったのは、やはり言葉の問題であった。
最初に住んだのは県人寮、そこは東京の中の田舎であった。
外出すれば東京、だがいったん寮に戻ればそこは方言を自由に喋れる田舎そのものの世界。
そんな中途半端な環境のため、いつまでたっても方言はとれないままであった。
こうした悩みは、多かれ少なかれ上京組には共通のものではあるが、なかでも訛りの強い東北人にとっては、それはことさら大きかったのではないかと思う。
たとえば井上ひさしは「東京人はきっと田舎者のわたしを愚かもの扱い」しているのではないかとの思いにさいなまれ、「訛りのある言葉を笑われやしないか」と激しい劣等感にとりつかれている。
ほとんどノイローゼ状態である。
そのいっぽうでは、寺山修司のように抜けなかった訛りを自分の個性とした者もいる。
また室生犀星のように東京の生活に疲れ切り、故郷へと逃げ帰ってしまうが、すぐにまた東京が恋しくなって舞い戻ってしまうなど、都落ちと上京を振り子のように何度も繰り返す者もいる。
そのようにそれぞれがそれぞれに様々な葛藤に苦しみながらも、やがて時間が経つにつれて次第にそうした悩みも解消されていき、東京と云う街に馴染んでいく。
そして江戸川乱歩が味わったような、都会のなかでの孤独や自由を謳歌するようになっていくのである。
乱歩は書く。
「青年時代、私は群衆の中のロビンソン・クルーソーとなるために浅草へ行った。知り人の全くいない大群衆の中にいることは、孤独の甘さを一層甘くしてくれるからである。」
こうした自分を無化してくれる都会の自由さは、上京者の特権のようなものかもしれない。
また斎藤茂吉のように、東京の郊外に故郷に似た風景を見つけ、それによって都市生活での挫折や憂鬱を晴らそうとする者もいる。
よくよく見れば東京という都会も、小さな田舎の集合体のようなものなのである。

このように上京者たちが味わったさまざまな格闘や自由から、時代を代表するさまざまな文学作品が生み出されていったのである。
各々の上京物語は、その作品同様まさに個性的。
それを読むことで、それぞれの作品がもつ魅力の一端に触れることができるのである。
今後はこれを手引きに、こうした作家たちの作品を読んでみたいと思っている。


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