風に吹かれて

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Category: 読書

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佐伯一麦 「ア・ルース・ボーイ」

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以前から気になっていた作家、佐伯一麦の小説を初めて読んだ。
1959年仙台市生まれの小説家である。
名前の一麦は「かずみ」と読む。
敬愛する画家ゴッホが、麦畑を好んで描いたことにちなんだペンネームである。
仙台第一高等学校を卒業後上京し、週刊誌記者、電気工など様々な職業を経て作家になる。
現在は仙台市在住で、東日本大震災時には自宅が大きく被害を受けている。
そのことはこの小説を読んだ後に知った。
私小説作家ということなので、この小説も自身の経験を踏まえて書かれているようだが、東日本大震災とは直接関わりのある内容ではない。
しかし震災後5年の節目を迎えたこの日、偶然にもこの小説を読んだことで、そこに何か不思議な巡り合わせのようなものを感じてしまう。

小説は高校を中退、父親の分からない子供を抱えた初恋の彼女とアパート暮しを始めた17歳の少年の日常が描かれている。
落ちこぼれの彼らが、生きるために職探しを始めるが、容易には見つからない。
早々と社会の厚い壁に阻まれることになるのだが、偶然の出会いから電気工事の見習いとして働けることになる。
ふたりはどちらも家庭的には恵まれず、それぞれ人に知られたくないトラウマを抱えている。
そんなふたりが、共に寄り添い懸命に生きようとする姿は、未熟で危なっかしいが、若さゆえの逞しさも同時に感じることができる。
そして肉体労働をすることによって次第に必要な筋肉がついていくように、心のなかにも次第に生きる力が備わっていく。
そうやって少しづつ、しかし着実に社会の一員となるべく成長していくプロセスが、何の衒いもなく抑えた筆致で描かれていく。
著者自身の体験がベースになっているだけに、作り物ではない力強さがそこにはある。
いずれにしても彼ら主人公たちの前途は、けっして平坦なものではないだろう。
それは容易に想像できることである。
しかし、恐らく彼らはもがき苦しみ、不器用ながらも、こうやって道を切り開いて生きて行くに違いないという余韻を残して小説は終わる。
そこには切ないものがあるが、同時に爽やかさも感じることができる。

題名の「ア・ルース・ボーイ」の「ルース」とは、「しまりのない」「だらしのない」「道徳感のない」といった意味である。
それは少年が教師から押された烙印ではあるが、この言葉を少年が辞書で引いてみると、そこには「自由」や「解き放たれた」といった意味も書かれており、それが今の自分にはふさわしいものだと感じるのである。
そうした両方の意味が、この題名には込められている。
けっして否定的に使われているだけではない。

この小説の後は、図書館でいっしょに借りてきた同じ作者の「木の一族」という小説が控えている。
こちらは短編集である。
読むのが楽しみになってきた。


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