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Category: 読書

Tags: 村上春樹  

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村上春樹「神の子どもたちはみな踊る」

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これらの短編は、当初「地震のあとで」というタイトルで、1999年8月から12月まで雑誌『新潮』に連載されたものである。
「UFOが釧路に降りる」、「アイロンのある風景」、「神の子どもたちはみな踊る」、「タイランド」、「かえるくん、東京を救う」の5篇、それに書下ろしの「蜂蜜パイ」を加えて出したのが、この短編集である。
いずれも1995年2月が舞台となっている。
それはこの年の1月に阪神大震災が、そして3月には地下鉄サリン事件が起きており、このふたつの未曾有の出来事に挟まれた2月という月に、人々はどう生きたかということを書いているからである。
いずれも阪神大震災との関連のもとに書かれているが、直接的にはそれらの被害について描いているわけではない。
というよりも、地震とはまったく関係のないように思えるものもあるが、詳細に読んでいくとそれは巧みに隠されている。
そのことについて村上春樹は次のように書いている。

<僕は『アンダーグラウンド』と『拘束された場所で』で、地下鉄サリンガス事件及びオウム教団を扱ったあと、どうしても阪神大震災についての本を書いてみたくなった。どちらかひとつだけでは片手落ちだという気がしたからだ。それら二つをあわせることによって、戦後日本の五十年の歴史に、ひとつのはっきりとした終止符が打たれることになるのだ。それはあくまで二つで一組の、巨大な不吉な里程標なのだ。しかし僕は神戸の地震についてのノンフィクションを書きたいという気持ちには、どうしてもなれなかった。そこは僕が少年時代を送った思い出の深い場所であるし、たくさんの知り合いもいる。そこに行って本を書くために事実を集めて回るというのは、僕にとってはいささか気の重いことだし、あまりにも生々しいことだった。それに僕としては、オウム事件とはまったくべつの切り口でこの出来事を取り上げ、語ってみたいという気持ちもあった。
 それで今回はフィクションの形式を使おうと決めた。それも短編小説の連作がいい。そして地震という題材を直接には取り扱わないことにしよう。物語の場所も神戸から遠く離れたところに設定しょう。その地震がもたらしたものを、できるだけ象徴的なかたちで描くことにしよう。つまりその出来事の本質を、様々な「べつのもの」に託して語るのだ。僕はそう決心した。>

どんな素材を扱う場合でも、彼は生のままで表現しようとはしない。
そうした直接的で荒々しいもの、洗練されていないものは、生理的に受け入れられないということなのだろう。
そしてそれを<「べつのもの」に託して語る>、それこそが村上春樹が村上春樹たる所以なのである。

ここでは、すべてが三人称で書かれているが、それはこれまで多くの小説を一人称で書いてきた村上春樹にすれば珍しいことである。

<こういう書き方をしたことには、やはり『アンダーグラウンド』を執筆した影響があったように思う。僕はそこで様々な物語の採集をし、人々のボイスをそのまま文章にする作業を一年間にわたって辛抱強く行ってきた。そのボイスは実に多様なものであり、ひとつひとつが取り替えのきかない固有のものであり、世界はそれらの無数のボイスの集積によって成り立っていた。そしてその世界を一人称だけでしめくくることは、現実的にもうほとんど不可能になっていた。そしてその三人称という語り口は、僕の短編小説のスタイルを多かれ少なかれ変えていったという気がする。>

この小説でまた新たな一歩を踏み出したというわけである。
そのことに関連するかどうかわからないが、この短編集のなかの唯一の書下ろしである「蜂蜜パイ」で、小説家である主人公・淳平は、次のようなことを考える。

<これまでとは違う小説を書こう、夜が明けてあたりが明るくなり、その光の中で愛する人々をしっかりとだきしめることを、誰かが夢見てまちわびているような、そんな小説を>

もちろん村上春樹は、これを自分と重ね合わせて書いたわけではなく、淳平と自分とはまったく違ったタイプの作家なのだと言うが、それでもやはりここには村上自身の新しい物語を紡ごうとする、新たな決意表明のようなものがあることを感じずにはいられない。
またそうであってほしい、そうであるはずだとの思いもある。
この本を読み終わって、そんな感慨が自然と湧いてきたのである。


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