風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 村上春樹  

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村上春樹「スプートニクの恋人」

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『ねじまき鳥クロニクル』完結以来、四年ぶりの書き下ろし長編小説である。
主な登場人物は、主人公の「ぼく」とすみれとミュウの三人。
「ぼく」は小学校の教師で、すみれは「ぼく」の大学時代の女友達、小説家を目指している。
ミュウは、すみれが従姉妹の結婚式で知り合った17歳年上の女性である。
そしてすみれは初対面の彼女に激しい恋をした。
すみれはこの時、大好きな小説家ジャック・ケアルックの話をした。
ジャック・ケアルックはアメリカの小説家で、所謂ビートニクを代表する人物であるが、その「ビートニク」という言葉をミュウは「スプートニク」と勘違いしたことから、すみれは彼女のことを「スプートニクの恋人」と呼ぶようになった。
それがこの小説の題名の由来である。
「スプートニク」とは、1957年にソ連が打ち上げた、世界初の人工衛星のことである。
そしてそれは「旅の連れ」を意味する言葉でもある。

「ぼく」はすみれに恋をし、すみれはミュウに恋をする。
そんなちょっと変わった三角関係のなかで、物語は進んでいく。
すみれはミュウの仕事を手伝うようになり、ミュウの秘書としてヨーロッパに行った時、ギリシャの島で突然姿を消してしまう。
そこから「ぼく」のすみれ捜しの旅が、始まるのである。
しかしすみれを捜し出すことはできない。

帰国後、ある事件が持ち上がる。
日曜日の午後、ぼくと不倫関係にある生徒の母親から、突然電話が入る。
クラスで「にんじん」と呼ばれている彼女の息子が、スーパーで万引きをしたというのだ。
彼女と一緒にスーパーに駆けつけ、警備員との間でひと悶着があるが、ようやく身柄を引き取ることができた後、「にんじん」とふたりで喫茶店に入って話をする。
そこでぼくは説教ではなく、ギリシャでの出来事やぼく自身のことについて独り言のように話し始める。
<ぼくはにんじんに向けて話しているのではなかった。自分に向けて話しているだけだった。声に出してものを考えているだけだった。>
そしてその長い話のなかで「にんじん」の態度に少しづつ変化が現れる。
この場面は小説のほぼ終幕において描かれるエピソードだが、深く胸を打つ。
本筋の物語とは直接関わりのない場面ではあるが、重要な場面である。
この小説の中での名場面のひとつである。

<どうしてみんなこれほどまで孤独にならなくてはならないのだろう。ぼくはそう思った。どうしてそんなに孤独になる必要があるのだ。これだけ多くの人々がこの世界に生きていた、それぞれに他者の中になにかを求めあっていて、なのになぜ我々はここまで孤絶しなくてはならないのだ。何のために?この惑星は人々の寂寥を滋養として回転をつづけているのか。>

<ぼくは目を閉じ、耳を澄ませ、地球の引力を唯ひとつの絆として天空を通過し続けているスプートニクの末裔たちのことを思った。彼らは孤独な金属の塊として、さえぎるものもない宇宙の暗黒の中でふとめぐり会い、すれ違い、そして、永遠に別れていくのだ。かわす言葉もなく、結ぶ約束もなく>

これはギリシャを去ることになった「ぼく」が、アクロポリスの丘に上り、白い神殿を眺めながら抱いた感慨である。
人は誰かと深く繋がることを求めている。
しかし人と人は、それほど容易く繋がることはできない。
それがこの小説を貫いている1本の太い幹である。
そこには深い孤独と空虚が漂っている。

そして続く終章で語られる次のような言葉が印象に残る。

<ぼくらはこうしてそれぞれに今も生き続けているのだと思った。どれだけ深く致命的に損なわれていても、どれほど大事なものをこの手から簒奪されていても、あるいは外側の一枚の皮膚だけを残してまったくちがった人間に変わり果ててしまっていても、ぼくらはこのように黙々と生を送っていくことができるのだ。手を伸ばして定めれらた量の時間をたぐり寄せ、そのままうしろに送っていくことができる。日常的な反復作業として。場合によってはとても手際よく。そう考えると僕はひどくうつろな気持ちになった。>


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テーマ : 読んだ本の感想等  ジャンル : 小説・文学

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Comments

村上春樹いいですね^^)
はじめまして。
この話も好きです。最後にすみれが帰ってきて良かった。
Re: 村上春樹いいですね^^)
jayさん、はじめまして。
書き込みありがとうございます。
村上春樹の小説には、他の小説にはない独特の魅力がありますね。
今後ともよろしくお願いします。






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