風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 村上春樹  

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村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」

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この小説は『羊をめぐる冒険』の続編として書かれたものである。
ただし『羊をめぐる冒険』の後、この小説が書かれるまでには6年近い時間が流れている。
またその間には、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『ノルウェイの森』というふたつの長編小説が書かれている。
そのことについて作者は次のように述べている。

<でもその二つを書き終えた時点で、僕はもう一度あの三部作の世界に戻ってみたくなったのだ。僕が『ダンス・ダンス・ダンス』という小説で本当に書きたかったのは、あの羊男のことだった。ある意味では、羊男はずっと僕の心の中に住んでいた。僕は『羊をめぐる冒険』を書き終えたあとでもよく羊男のことを考えた。 >
そして「僕」を「ああいうひどい場所におきざりにしたことに」「責任を感じていた」。
そこであの「ひどい場所」から救い出したいとの思いからこの小説を書いたのである。

物語は友人であった鼠と恋人を失った僕が、羊男と出会った、いるかホテルを再び訪れることから始まる。
しかしそこは以前あったいるかホテルとは違い、ドルフィンホテルと名を変えた現代的なホテルに変わっていた。
そこで再び羊男と出会うと、彼から次のようなことを言われる。

「踊るんだよ」
「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。そうするとあんたはこっちの世界の中でしか生きていけなくなってしまう。どんどんこっちの世界に引き込まれてしまうんだ。だから足を停めちゃいけない。どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、そんなこと気にしちゃいけない。きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ。そして固まってしまったものを少しずつでもいいからほぐしていくんだよ。まだ手遅れになっていないものもあるはずだ。使えるものは全部使うんだよ。ベストを尽くすんだよ。怖がることは何もない。あんたはたしかに疲れている。疲れて、脅えている。誰にでもそういう時がある。何もかもが間違っているように感じられるんだ。だから足が停まってしまう」
「でも踊るしかないんだよ」
「それもとびっきり上手く踊るんだ。みんなが感心するくらいに。そうすればおいらもあんたのことを、手伝ってあげられるかもしれない。だから踊るんだよ。音楽の続く限り」
オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。

そして自分のなかで失われた何かを回復するために、僕の前から姿を消した恋人を探す旅が始まるのである。
その旅の途中で、様々な個性的な人物たちと出会う。
ホテルのフロント係の女性ユミヨシさん、中学校の同級生で映画スターの五反田君、ユキという名の少女、その父親である牧村拓、母親のアメ、その恋人のディック・ノースなど。
そして彼らとの不思議な交流が続くなかで、ある者は死に、ある者は姿を消していく。
ここでも出会いと別れが繰り返されていく。
物語の中心となるのは、ユキと五反田君である。

ユキはドルフィンホテルで出会った少女である。
彼女の母親アメは、有名なカメラマンで、世界を股にかけて活躍をしている。
両親は離婚をしており、ユキは不登校となって、母親と共に旅をしている。
しかし、アメは時としてユキの存在を忘れてしまい、衝動的に自分勝手な行動をとることがある。
僕がユキと知り合ったのも、そうやってユキがホテルにひとり置き去りにされた時であった。
そして行き掛りでユキを東京の自宅まで送り届けることになり、それがきっかけでユキとの交流が始まる。
ユキには特別な能力が備わっており、僕に様々なものを示したり、導いたりしていく。
謂わば彼女は「巫女」のような存在で、物語を牽引していく存在でもある。
『羊をめぐる冒険』では耳の女キキがその役割果たしていたが、ここでは彼女がそれを担っているのである。

いっぽう、五反田君はホテル滞在中に観た映画の主人公として僕の前に現れる。
そのなかで彼の相手役としてわずかに顔を出すのが、僕が捜し求めていた恋人キキであった。
そこで詳しい話を聞くために五反田君と再会することになるが、結局キキに関する手がかりは掴めないままで終わってしまう。
以後僕と五反田君との新しい付き合いが始まる。
五反田君は容姿端麗で頭脳明晰、絵にかいたようなエリートである。
どんなことをやっても人より秀でており、期待に違わぬことがない。
そして今は俳優として派手な生活を送っている。
高級マンションに住み、高級外車に乗り、一流レストランで食事をするという、人も羨むような生活である。
だが本当は彼は穏やかで健全な生活を送ることを望んでいる。
しかし周りがそれを許さない。
そのため自分が望むものは何ひとつ手に入れることが出来ないでいるのである。
そうした乖離と抱え持つ心の闇から、彼はコールガールを殺し、マセラッティに乗って海に飛び込んで死んでしまう。

小説の舞台となるのは、1983年、これからバブルが始まろうとする時代である。
その狂乱の時代の予兆を孕んだ年である。
そうした時代を生きる五反田君は、謂ってみれば高度資本主義社会がつくり出した歪んだエリートであり、犠牲者である。
そして、実は五反田君は僕自身ではないかと、僕は思っている。
村上作品では多くの分身が描かれるが、ここでは五反田君が僕の分身となっている。
そうした分身たちとの関係のなかで、僕は自分自身を検証していくことになる。
その結果、僕は成長し、生き延びる力を獲得していくようになる。
そして自分自身の人生を生きるために、愛するユミヨシさんのもとへ帰っていこうと決意するのである。
『羊をめぐる冒険』では絶望だけしか残らなかったが、ここでは希望を残して終わる。
それが僕と鼠と羊男の長い物語の、最終的な着地点である。

3部作とはいささか趣を異にしたこの小説で、また新たな村上文学の魅力に出会うことができたように思う。

ところで村上春樹の小説には、様々な音楽が登場してくる。
ジャズをはじめ、ポップス、ロック、クラシック、そして映画音楽とあらゆるジャンルの音楽が流れる。
小説の中にこれほど多くの音楽を登場させるのは、村上作品以外ではあまり記憶にない。
これほどたくさんの音楽が登場するのは、彼が音楽好きということもあるが、それだけではなく、音楽によって言葉では表わしにくいような雰囲気や心情などを表現しようとしているからではなかろうか。
それによってより重層的なイメージを作り上げようとしているように思われる。
ちなみにこの小説に出てくる音楽を、思い出すままに書いてみると、ローリング・ストーンズ『ブラウン・シュガー』、レイ・チャールズ『ボーン・トゥー・ルーズ』、マイケル・ジャクソン『ビリー・ジーン』、リッキー・ネルソン『トラヴェリン・マン』、デヴィッド・ボウイ『チャイナ・ガール』、ポール・マッカートニー&マイケル・ジャクソン『セイ・セイ・セイ』、ボブ・ディラン『ハード・レイン』、ビーチ・ボーイズ『ヘルプ・ミー・ロンダ』、ボブ・マーリー『エクソダス』、ブルース・スプリングスティーン『ハングリー・ハート』、ジョン・コルトレーン『バラード』、ビル・エバンス『ポートレイト・イン・ジャズ』等々、この他にもまだまだある。
まるでラジオのリクエスト番組を聴いているような数の多さである。
こうしたところも村上文学の大きな特徴であり、また魅力でもある。


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