風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 村上春樹  短編小説集  

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村上春樹「中国行きのスロウ・ボート」

slowboat.jpg

村上春樹、初の短編集である。
書かれたのは、1980年4月から82年12月にかけてのこと。
収録されているのは、表題作の『中国行きのスロウ・ボート』をはじめ、『貧乏な叔母さんの話』、『ニューヨーク炭鉱の悲劇』、『カンガルー通信』、『午後の最後の芝生』、『土の中の彼女の小さな犬』、『シドニーのグリーン・ストリート』の7編。
『1973年のピンボール』が出版された後に前半の4編が、『羊をめぐる冒険』出版後に後半の3編が書かれている。

印象に残ったのは表題作の『中国行きのスロウ・ボート』と『午後の最後の芝生』。
『中国行きのスロウ・ボート』は主人公の「僕」が、若い頃に出会った3人の中国人の話である。
その中国人たちとの出会いのなかで語られる青春の日々の記憶、そしてそれによって引き出されていく「ここは僕の場所でもない」という思い。

『午後の最後の芝生』も『中国行きのスロウ・ボート』同様、30歳を越えた「僕」が、18歳か19歳だったころの自分を回想するという話。
その頃「僕」は芝刈りのアルバイトをやっていたが、事情があってそのアルバイトをやめることになる。
そして最後の仕事のために訪れた家で起きた出来事が語られる。

どちらも青春時代の挫折や傷が鮮やかに蘇るという構成になっており、そこに漂う明と暗、光と影が自らの青春時代と重なり、懐かしさとともに幾分の愛おしさを感じることとなった。

その『午後の最後の芝生』のなかの心に残った言葉。

<気の長い仕事だ。適当にやろうと思えば適当にやれるし、きちんとやろうと思えばいくらでもきちんとやれる。しかしきちんとやったからそれだけ評価されるかというと、そうとは限らない。ぐずぐずやっていると見られることもある。それでも前にも言ったように、かなり僕はきちんとやる。これは性格の問題だ。それからたぶんプライドの問題だ。>

これはよく解かる。
このように村上春樹の小説の主人公たちは、多かれ少なかれ、この小説の主人公のように「きちんとやる」人間ばかりである。
そんなところも、彼の小説の魅力のひとつになっているようだ。

ここに書かれているのは、日常のなかでふと出会う、ちょっと奇妙で不思議な出来事ばかり。
とくに何かが起きるというわけではなく、ごくありふれた日常が淡々と過ぎていくだけ。
しかしよく見ると、そこにあるのは普通の日常とはどこか違って見える世界である。
目に映る現実というよりも、もっと深い精神世界のような。
そんな謎めいた白昼夢のような物語を読んでいるうちに、いつの間にか空中を彷徨っているような不思議な感覚に陥っていく。
譬えて謂えば、それは小説を読むというよりも、詩や音楽を聴く感覚に近いのかもしれない。
そしてそうした感覚をまたもういちど味わいたくなり、彼の小説を手に取ってしまうのである。
村上春樹の小説はクセになる。


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