風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 村上春樹  

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村上春樹「風の歌を聴け」

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村上春樹の小説を読み続けている。
そこでここいらでひとつ時代を追って順番に読んでみようと、デビュー作「風の歌を聴け」を読むことにした。
この小説を読むのは2度目のこと。
以前読んだのはいつだったか忘れてしまったが、リアルタイムで読んだというわけではない。
おそらく10年くらい前ではなかったかと思う。

トルーマン・カポーティの短篇の一節「何も思うまい。ただ風にだけ心を向けよう」から名付けられたこの小説は、1970年8月8日から8月26日までの「僕」の周りで起きた出来事が書かれているだけで、特にこれといった事件が起きるわけではない。
「鼠」と呼ばれる友人と「僕」、そしてバーで酔いつぶれていた女との出会いと別れが淡々と描かれるだけである。

この小説を読んで、まず最初に受けた印象は、とても洗練されているということ。
これは村上春樹のどの小説にも共通することだが、日本の小説を読んでいるような気がしない。
初めて読んだ時にも感じたことだが、今回読んでも、その印象は変わらない。
それは翻訳調の文体や、切れがよく味のあるメタファー、無駄話とも思えるような何気ない会話、そして映画や音楽をはじめとしたアメリカンな小道具の使われ方、そうしたものがセンス良く散りばめられたことから醸し出される印象である。

またこの小説は、アメリカの作家リチャード・ブローティガンやカート・ヴォネガットの小説を参考にして書いたと言われている。
その特徴は、短いエピソードの積み重ねや断章のコラージュ、そして心理描写を極力抑えるといったもの。
そうした作風を、村上春樹流に巧みに取り入れることで出来上がったのが、この小説である。
そんなところも、この小説を洗練されたものにしている要因である。

普通読者は作家が年齢を重ねるにしたがって、それに合わせて年をとっていくものだが、村上春樹の場合はどうやらそうではなさそうだ。
依然今でも若い年齢層の読者が多い。
この小説が書かれたのは30年ほど前のことだが、今読んでも古びていない。
いやむしろ未だに感覚が新しい。
それはこうした作風によるところが大きいのだろうとあらためて思う。
そしてそれが今も若い読者を惹きつける魅力のひとつになっているのである。

さらにその翻訳調の文体が、物語世界と読者との間に適度な距離感をつくり出している。
物事は近すぎると却って全体像がよく見えなくなってしまうことがあるが、彼の小説にはそれがない。
翻訳調の文体が作り出す適度な距離が、われわれ読者に余裕ある心理的空間を与えてくれているのである。
そのことにより物語そのものは、いかにも作り物めいた印象があるが、その底に流れている心情は、逆にリアリティを持ったものとして伝わってくる。
そしてこうした手法は、何かを正確に描き出すのではなく、逆に何かを暗示しぼかすことでより深いリアリティを感じさせるという効果を生み出しているのである。
それは物語が本来持つ力というものだろう。
コミニケーションがうまく取れない若者の静かな絶望や寂寥感が、しみじみとそして痛切に響いてくる。

<完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。>
<どんなに惨めなことからでも人は学べるし、だからこそ少しずつでも生き続けることができる>
人はお互いに本当の意味では、分かり合えることは難しい。
結局どんな人間も、ひとりで生きていかざるをえないのである。
そうした諦めや空虚さが、そして不毛な世界観が小説全体を覆っている。

村上春樹の小説は、読むたびに新しい発見がある。
そして繰り返し読む必要があることを、さらにそれに応えるだけの奥深さを持っていることを、改めて思ったのである。


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