風に吹かれて

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Category: 読書

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村上龍「55歳からのハローライフ」

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村上龍の小説を読むのはこれが初めて。
これまでは過激でセンセーショナルな小説を書く作家というイメージがあって、あまり読む気になれなかったが、これを読んで、それがかなり偏見に満ちた見方だったということに気がついた。
こういう身近な人間を題材に書くこともあるのだということを、あらためて知ったのだ。
この本を読もうと思ったのは、その題名に引かれたからである。
身近で切実な響きが伝わってきたのである。

そして読んでいるうちに、以前これがドラマ化されていることに気がついた。
調べてみると、昨年6月にNHKの「土曜ドラマ」として5回シリーズで放送されていた。
観ることはなかったが、度々流されていた予告を見て、少しばかり関心をもったことを思い出したのである。

この小説は60歳前後の世代の人たちの、人生の再出発を巡る姿を描いた連作短編集である。
「結婚相談所」、「空を飛ぶ夢をもう一度」、「キャンピングカー」、「ペットロス」、「トラブルヘルパー」の5編から成り、「結婚相談所」と「ペットロス」は女性が主人公、あとの3篇は男性が主人公である。
また「キャンピングカー」は悠々自適層、「結婚相談所」と「ペットロス」は中間層、そして「空を飛ぶ夢をもう一度」と「トラブルヘルパー」は困窮層と色分けされており、いずれの主人公も人生の再出発に際して、今後どう生きるべきかを模索している。
そしてそのいずれもが、予想に反した厳しい現実と直面せざるをえなくなるのである。
そのなかで彼らが、どのように行動し解決策を見出していくのかが描かれている。

どの話もよく出来ており、いつ身近で起きても不思議ではないような話ばかりである。
なかでも「空を飛ぶ夢をもう一度」は身につまされて、深く感動させられた。
いつか自分はホームレスになってしまうのではないかという不安をもつ男の話である。
出版社を54歳でリストラされ、今では道路工事の交通誘導員をやりながら、細々と暮らしている。
そんな彼の前に、中学時代の同級生と名乗るホームレスの男が現れる。
そしてひょんなことから、その男の人生最期の幕切れに関わることになったことで、様々なことに気づかされることになる。
「生きてさえいれば、またいつか、空を飛ぶ夢を見られるかも知れない。」
重苦しい話だが、最後にかすかな希望を残して終わる。
「体力も弱ってきて、経済的にも万全ではなく、そして折に触れて老いを意識せざるを得ない、そういった人々は、この生きづらい時代をどうやってサバイバルすれば良いのか。」
そうしたことがリアルに、そしてしみじみと書かれているのである。

この5編のいずれにも共通するものとして、飲み物への拘りがある。
順番に書くと、まず蜂蜜を入れたアールグレイの紅茶、そしてイタリア産の発泡性ミネラルウォーター、ドイツ製のミルで自ら豆をひきパーコレーターで入れたコーヒー、中国式のガラスの茶瓶に詰めた良質のプーアル茶、佐世保の三川内焼の茶碗で飲む狭山の新茶と続く。
こうした飲み物についての効用を、「結婚相談所」のなかでは次のように書いている。

<誰にでも、辛いときがある。精神的に不安定になったとき、まず飲み物をゆっくりと味わうことができれば、どんな人でも気持ちが鎮まるはずだ。それは儀式のようなもので、しかも誰かに頼る必要もない。>

また「ペットロス」のなかでは、犬を通して知り合ったヨシダさんに次のように言わせている。

「ほら、よくテレビドラマとか映画とかで、パニックというか、あまりに悲しかったり、苦しかったりして、自分を失いそうになった人に、深呼吸しなさいとか言って、水を飲ませるでしょう。何かね、心が揺れて、自分自身を失っているときって、お茶を楽しむ余裕がないんですよね。ぼくは、だからお茶っていうか、飲み物は、単に水分を補給するだけじゃなくて、もっと意味があるんだと思うんですね。悲しいことや苦しいことがあるときに、ゆっくりとお茶を飲んで救われることって、多いと思うなあ。」

なるほど、そういうこともあるのだなと心底納得させられた。
そしてこうした不安を和らげてくれるものを持つことの大切さを、改めて考えさせられた。
同時にいい小説を読んだという満足感に、しみじみと浸ったのである。
村上龍の別な小説も、読んでみようと思っている。


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