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中島たい子「漢方小説」

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先日の「院内カフェ」に続いて読んだ中島たい子の小説である。
今回も同じく病院ものというか、病気に関連した小説であったが、書かれたのは、こちらが先である。

これが2冊目になったので、参考のために著者の略歴を書いておく。

1969年生まれで東京都出身。
文化学院の高等課程美術科卒業後、同校の専門課程の建築科に入るが、多摩美術大学芸術学部映像コースに転学し、卒業。
建築家・毛綱毅曠の事務所でアルバイトをしていた経験がある。
1996年、「チキチキバンバン」で第1回日本テレビシナリオ登龍門・大賞受賞。
1997年、「宇宙のペン」で第23回城戸賞準入選。
2004年、「漢方小説」で第28回すばる文学賞受賞。
2005年、「漢方小説」で第132回芥川賞候補。
2006年、「この人と結婚するかも」で第133回芥川賞候補。
ちなみに先日読んだ「院内カフェ」は、今年出版された最新作である。

もともとは脚本家として出発した作者と同じように、この小説の主人公である「私」も、31歳の脚本家であり、作者自身がモデルとなっているようだ。
その「私」が、ある日突然原因不明の痙攣を起こして、救急車で病院に運び込まれる。
だが、検査をしても特に異状は見つからず、症状も改善されない。
そして病院を転々とした末にたどり着いたのが、ある漢方診療所であった。
そこで受けた診察と治療により、症状は徐々に改善され、回復へと向かっていく。

特別目立った出来事が起きるわけでもなく、31歳の女性のごくありふれた日常が淡々と過ぎていくだけの話だが、その語り口の軽快さに、面白く読まされる。
なかでも東洋医学の奥深さに魅せられた主人公が、関連の本を読んだり、物知りの知人から話を聞いたりしながら、漢方の世界を知って行くくだりでは、主人公とともに興味をひかれる。
勉強のためにそのくだりをいくつか書いておくことにする。

まずは「陰陽五行説」について。

<「五行説」とは古代の中国で生まれた理論で、自然界や世の中の事物を解釈したり把握しようとするときに、この五つの基本要素(木、火、土、金、水)を用いて説明づけたという。万物はこの木火土金水、西洋で言うところのエレメンツからできていて、その五つは互いに影響を与えて作用し、変化を生み、宇宙、事象、そして人間の体をも創りだしていると考える。>

<木は燃えて火を生む。火は燃えた後に土を生む。その土から金属が生まれ、金属に水滴がついて水が生まれる。そして水は気を育てる。>(『生み出す』関係)

<水は火に勝つ。火は金に勝つ。溶かすから。金は木に勝つ。これは斧が木を切るから。木は根をはって土に勝つ。土は水を堰き止めて水に勝つ。>(『抑制する』関係)

そしてこれを木→肝、火→心、土→脾、金→肺、水→腎と、五臓にあてはめて考えていく。

<この五臓は、西洋医学で言う肝臓、心臓、腎臓、肺などとは必ずしも一致しない。なぜなら中医学では、この五つの臓だけで体の基本的な生命維持機能をほとんど説明してしまっているからだ。なので必然的に西洋医学でいう脳や他の臓器の働きも、この五臓に振り分けられている。例えば東洋医学で言う『腎』は、西洋医学と同じように体液の調節をしている役割に加えて、生命力の源となるエネルギー『精』を蓄える臓器でもあるとされている。腎が弱ると、発育不全や老化現象が現れるとなっていて、それは西洋医学的に言えば内分泌系のことを指しているともいえる。『肝』にも血を蓄えるという働きの他に、自律神経的な要素がふりわけられている。
 そして生命維持の為に欠かすことができないとされている『気』『血』『水』というものがあり、五臓はこれらを滞りなく体中に巡らせる為に働いていることになっている。気功ブームがあったりして『気』という言葉も怪しげなイメージがぬぐえないけれど、『気』も西洋医学に翻訳するならば代謝、消化吸収、神経系機能と言うことができるらしい。『血』も、単なる血液とは違い、西洋医学でいう循環器や内分泌系の概念までが含まれている。これらの気血水が滞ったり不足したりすると身体のバランスが崩れて病気になるのだ。>

さらに「七情」というのがある。

<『七情』とは、代表的な七つの情緒反応『喜、怒、憂、思、悲、恐、驚』のことで、驚いたことに中医学ではこれらの感情も例の五臓に振り分けて考える。心は喜を、肝は怒を、脾は思を、肺は悲と憂をと、それぞれの臓が担当する感情が決まっている。そして各臓器と各感情は互いに影響を与える密接な関係にあるという。>

「七情」とはすなわちストレスのことで、西洋医学と同様に病因のひとつと認めている。
そしてその病因について、次のように書いている。

<病気の原因となる要素や、それが身体をおかすことを『邪気』というのに対して、『正気』はそれに負けない力、身体の防御機能が正常に働いていることを指す。相対的に邪気が正気を上まわったときに病気になるとある。『邪気』は、いくつかに分類されている。気候の変化やウィルスなど外界からくる病因。体内の調節機能の失調などによる内的な病因。そして生活習慣などによる社会的な病因、等々。『七情』も、その中の病因の一つとして取り上げられている。この七つの情緒反応が過度になったりすると、五臓を痛めて病気になるとある。怒ると肝が傷ついて血が上昇し、眩暈、頭痛などをもたらす、とか、思いすぎると脾が傷ついて消化機能が弱り、食欲減退、胃もたれが生じる。>

さらに

<万物は気からできていると考える『気一元論』が中医学の基盤をつくっている。ここでの『気』は、私たちの持っている曖昧なイメージとは違って、あくまでも存在が確かな『物質』を意味する言葉だ。気から生じ、気で動いている五臓から精神意識は生まれていると言っている。ということは精神も気であり、物質なのだ。>

斯様にこの小説によって、東洋医学の奥深い世界を垣間見ることができたわけだが、物語の面白さだけでなく、こうした雑学を知ることができるのも、小説を読む楽しみのひとつである。
いい勉強になった。


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