風に吹かれて

My Life & My Favorite things

Category: 読書

Comment (0)  Trackback (0)

桐野夏生「抱く女」

dakuonna.jpg

大学時代に1年間ほど吉祥寺に住んだことがある。
1969年から1970年にかけての頃である。
今でこそ吉祥寺は、「住みたい街」1位に選ばれるほどの人気の街だが、その当時は今ほど賑わった街ではなく、駅前に古びた商店街が一筋あるだけのごく普通の落ち着いた街であった。
ただ近辺に成蹊大学があったことから、学生の姿は多く、そうした学生たちを目当てにした個性的な店も数多くあり、後に「中央線文化」と呼ばれるようなサブカルチャーの芽がいくつか見られる街であった。
この小説はそんな時代の吉祥寺を舞台にした物語である。
時代は1972年、あさま山荘事件と連合赤軍のリンチ事件があった年。
それがきっかけで、学生運動は急速に下火になりつつあった。
一方、セクト間の争いはより過激なものとなり、内ゲバが頻発するという重苦しい時代であった。

主人公は20歳の女子大生。
大学にも行かず、雀荘にたむろする男たちと酒や麻雀に現を抜かし、ジャズ喫茶でバイトをしながら無為な日々を過ごしている。
まだ何者にも成り得ていない自分には本当の居場所はなく、やり場のない焦燥を抱え、生きづらさに喘いでいる。
生きることに不器用で、しかも一面では潔白なほど生真面目で、その一方で怠惰、そんな矛盾だらけの生活を送っている。
脆く傷つきやすく未熟、そして愚かなことばかりを繰り返してしまう。
青春とは何と生き辛いものなのか。
そんな作者の思いが伝わってくる。

当時の吉祥寺には、「FUNKY」というよく知られたジャズ喫茶があった。
そしてそれに対抗する後発のジャズ喫茶「MEG(メグ)」があった。
それが小説のなかに登場するふたつのジャズ喫茶「COOL」と「CHET」のモデルになっている。
どちらも当時何度か足を運んだ場所である。

斯様に記憶の重なる部分がいくつかあり、親しみを覚えるものの、それでも懐かしさよりもむしろ、苦さの方を強く感じてしまう。
青春とは輝かしく楽しいばかりではない。
いやむしろ暗く苦しいことの方が多い。

作者の桐野夏生にとってこの時代は、避けて通り過ぎることのできない時代、どうしても一度は書かなければならない時代ということのようだ。
そうした切実さが、この小説からは伝わってくる。

題名の「抱く女」は、当時盛んになり始めたウーマンリブ運動の「抱かれる女から抱く女へ」というスローガンから採られている。
自立を果たすためには、人は何と多くの関門を潜り抜けねばならないことか、そんな感慨を持ちながら、小説を読み終えた。


にほんブログ村 本ブログへ 
↑ クリック、お願いします。 ↑
スポンサーサイト

Newer Entry伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」 Older Entry映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」
Comments






カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
性別:男

還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

映画サイト「マイ・シネマ館」もやっています。
こちらもよろしく。

ランキングサイトに参加しています。
もしよければクリック、お願いします。↓
ブログランキング・にほんブログ村へ 

cooldaddyの本棚
FC2ブログランキング
ブログ内検索
QRコード
QRコード

1234567891011121314151617181920212223242526272829303110 2017