風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 時代小説  

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松井今朝子「仲蔵狂乱」

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初代、中村仲蔵は、江戸時代後期に活躍した歌舞伎界の名優である。
なかでも特異な点は、幼くして両親を亡くした孤児であったものの、厳しい修行の末、ついには名題にまで登りつめたということである。
門閥が絶対の梨園にあって、これは稀有なことである。
名題というのは歌舞伎界における役者の頂点である。
ちなみに役者の身分は、下立役(通称、稲荷町)、中通り、相中(あいちゅう)、相中上分(あいちゅうかみぶん)、名題(なだい)下、名題となっており、その身分の壁を越えることは至難の業である。
しかもそれを果たしたのは、後にも先にも中村仲蔵しかいない。
これはそんな中村仲蔵の生涯を描いた小説である。

中村仲蔵の存在を知ったのは、五代目、三遊亭円楽が語る人情噺「中村仲蔵」によってであった。
ひと昔前、ラジオで放送されたのを録音、繰り返し何度も聴いたものである。
以来、六代目三遊亭円生や、芝居噺が得意だった八代目林家正蔵(先代)、さらには十代目金原亭馬生といった様々な演者の「中村仲蔵」を聴いた。
どれも楽しめるものではあったが、やはり最初に聴いた円楽のものが、一番の好みである。
いずれにしても、この演目は馴染が深い。
ちなみに噺の内容は、苦労して名題になった仲蔵が、「仮名手本忠臣蔵」上演の際、五段目の斧定九郎一役だけという冷遇にあうが、それにめげることなく、役を工夫、観客の喝采を浴びるというもの。
当時の五段目というのは、俗に弁当幕と呼ばれ、舞台を見るよりも弁当を食べることに忙しくなるという、まったく人気のない幕であった。
しかも斧定九郎というのは、見栄えのしない山賊で、名題になった役者がやるような役ではなかった。
しかし仲蔵はその役に独自の解釈を施すことで、今日も残る、錦絵から抜け出したような見事な斧定九郎へと変えたのである。
もちろん小説でも、そのくだりは詳しく書かれているが、それは仲蔵の修行のごく一部のエピソードに過ぎない。
それよりもっと凄まじいのは、稲荷町時代に仲蔵が役者仲間から受けたいじめや差別の数々。
これは競争社会である歌舞伎界の裏面史ともいえるもの。
そのあまりの陰惨さに耐えかねた仲蔵は、自殺未遂まで起こすが、たまたま居合わせた武家に助けられる。
そしてその後は「芸狂い」と呼ばれるほどの精進をして、役者としての実績を積んでいく。
それにつれて周りの扱いも次第に変化していく。
その過程が詳細に語られており、興味が尽きない。
まさに不世出の名優が辿った波乱の人生が、迫力たっぷりと描かれていくのである。

この小説は、第8回(1997年)時代小説大賞の受賞作である。


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