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風に吹かれて

My Life & My Favorite things

Category: 読書

Tags: エッセイ・評論  

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関川夏央「中年シングル生活」

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著者、関川夏央は1949年生まれで、私より1歳年下の団塊の世代。
この本が書かれたのは、1993年から96年にかけてのことだから、彼が40代前半から後半の頃ということになる。

全編これ、自身および友人、知人、そして文学作品のなかの「シングル生活者」についてのエッセイである。
その語り口は時に自虐的であり、また時に滑稽であり、そしてそこはかとない寂しさが漂っている。
ハードボイルドの「探偵もの」を引き合いに出しては、そこに都会に生きる「独り者」の「自由」と「孤独」を見、また樋口一葉やその恋人、斎藤緑雨の無念さへと思いを馳せる。
幸田文の「流れる」を独身女性の小説と見なし、小林旭の「渡り鳥シリーズ」をシングル色の濃い映画と分析する。
さらに林子平の言葉、「親は無し妻なし子無し板木なし金も無ければ死にたくも無し」が身にしみると書く。
自由で気楽に見えるが、実際は自ら身を律しないと放埓に流れてしまう独身者の生活の困難を切々と語っていく。
そのひとつとして映画評論家、小川徹の孤独な死を取り上げているが、これを読んでちょっと言葉を失った。
「ひとりものの死にかた」と題したその文章から少し抜粋して書いてみる。

映画評論家の小川徹は1991年、六十七歳で死んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
小川徹は生涯独身で、長く母親とふたり暮らしだった。
81年に母親が死んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
母親に死なれて彼はすっかり気落ちしたようだった。最後の二年間はほとんど外出せず、チャンネル三つしか映らない古テレビを始終見ていた。
電話好きの癖だけは残ったが、その口調は異常にくどくなった。ときには被害妄想から旧友にひどい悪罵を投げつけたり、往時とは性格が変質したようだった。彼もボケたのである。
何日も電話が不通になっているのをあやしんだ親族が品川の自宅を訪ねてみると、小川徹はもう死んでいた。どこかへでかけようとしたのか、あるいは誰か遠い昔の女友だちから電話を受けたものか、受話器を握りしめたままだった。
マリリン・モンローも受話器を握っていたが、彼女はシャネルの香水のかおるベッドにいた。小川徹が冷たい体を横たえていたのは、ゴミの山と猫の排泄物が厚く堆積する部屋の、三十年間敷きっ放しという異臭漂う万年床の上だった。ひとりものの、それは壮絶すぎる死にかただった。


愕然とする話である。
著者、関川夏央はこれを書きながら、そこに自らの末期の姿を重ねてみたのかもしれない。
そしていささかの決意と覚悟に身を引き締めたにちがいない。

あとがきには次のように書く。

この本は「さびしい本」ではない、しかし「たのしい本」というわけにもいかなかった。不幸でもなく、幸せでもなく、同時につまらなくもない中年的シングル生活の実情を、自信と痩せがまん半々にしるそうとした。
少しずつ迫ってくる老化にやや困惑しつつも必ずしも希望を失わず、いわば泣き笑いの顔でユーモア読物を書いてみたかった、そういうことである。


この本を読みながら、私自身も、いつか「老年シングル生活者」という立場に立たされるということが、あるいはあるかもしれない、との思いでこの本を読んだ。
その時のための老い支度として考えれば、これは示唆に富んだ一冊のように思われた。

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テーマ : エッセイ  ジャンル : 小説・文学

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