風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 川本三郎  エッセイ・評論  

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川本三郎「そして、人生はつづく」

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長年連れ添った愛妻を亡くし、ひとり暮らしを始めた著者が、雑誌「東京人」に毎月一回、日記形式で書き綴ったエッセイ集である。
映画好きなら題名を見て、すぐに気づくと思うが、これはアッバス・キアロスタミ監督の映画の題名からの転用である。
1990年、イラン北部を襲った大地震のあと、キアロスタミ監督が被災地を旅したドキュメンタリー風の作品がそれである。
そしてそのことを川本氏は、「どんな悲劇に遭ったとしても生き残った者は、昨日と同じように今日も生きてゆかなければならないという切実な思いがこの言葉にはこめられている。」と書いている。
さらに<家内を癌で亡くしたあと、私にとってもこの言葉は支えになった。悲しみを大仰に語ることなく、毎日を普通に生きること。なんとかいままでどおりに暮らしてゆくこと。3・11の惨劇のあと、現代を代表する俳人、長谷川櫂さんは、「やむにやまれぬ思い」で、俳句ではなく歌を詠み、『震災歌集』にまとめた。そのなかにこんな歌がある。「ラーメン屋がラーメンを作るということの平安を思う大津波ののち」。
 悲劇の大きさを知れば知るほど日々の「平安」が大事に思えてくる。物書きである私にとっては、一人で暮らすことに平安を見出してゆくことになろうか。頭のなかにはともかく、暮しのなかには修羅を持ちこまないこと。静かな生活を心がけること。
 そうやって家内亡きあとの日々をやり過ごしてきたように思う。>
そして<自己管理をきちんとし、静かに暮すこと。一人暮しになって静かな一日を送ることの困難と、それゆえの幸福を知るようになった。
家事をし、仕事をし、散歩をし、一日の終わりに酒を飲みながら、昔の映画をビデオで見る。無論、そんな平穏な一日が毎日あるわけではないが、それだからこそ「秩序と平和」が大事なものに思えてくる。>
そんな日々を書き連らねている。

本を読み、映画を観て散歩をする。
さらにコンサートや舞台や美術展にも足繁く通う。
ひとりになったことで以前以上に旅に出るようになった。
もちろん鉄道好きなので、移動はすべて鉄道を利用する。
さらに旅以外でも日常的に鉄道を利用する。
とくに本を読むためだけに電車に乗る。
それを「読書散歩」と称している。
かつては「中年房総族」を名乗り、房総半島を巡ることが多かったが、最近は八高線(八王子と高崎を結ぶ路線)や中央本線がお気に入り。

<電車のなかの読書はとてもはかどる。書評の仕事で早く読まなければならない本がある時は、それを持って電車に乗る。
 最近は東京近郊から甲州へ行くことが多い。こういう時はファミリー・レストランや牛丼屋の朝定食ですませ、井の頭線の浜田山から上り電車に乗る。明大前駅で乗り換え、京王線の下りに乗る。高尾まで行く。六時台の下りはすいている。ゆっくり座って本が読める。新書など薄い本だと、この行き帰りで大半が読めてしまう。
 厚い本の時は、高尾からさらに中央本線の各駅停車に乗り、甲州に向かう。通学の学生で混んでいるが、上野原でたいてい座れる。大月まで、さらに塩山まで、時には小淵沢まで行って戻ってくる。>

ローカル線に頻繁に乗り、気が向けば見知らぬ駅に降り立ち、観光地ではないごくありふれた生活感溢れる町を散策する。
「歳をとり、一人暮しをするようになってから、いよいよこういう小さな町を歩くのが好きになった」のを実感する。
また時には、「大回り」という乗り方を楽しんだりもする。
これはわざと遠回りするという鉄道マニアならではの遊びであるが、もちろんこれも「読書散歩」のひとつであり、「一日の行楽」である。

さらに3・11の大震災後は、旅に出る元気がなくなるが、「これではいけない」と思い直して旅に出る。
以後地震の被害に遭った鉄道を頻繁に利用するようになる。
そして震災のあれこれについて、真摯に思いを馳せ、3・11以後の自分を含めた個人や社会の変わり様を克明に拾い集めていく。

こうして書かれたエッセイの中には、例のごとくかなりの量の映画や音楽、そして本が取り上げられているが、博覧強記な著者らしく多岐に渡っており、その紹介を読んでいるだけでもスリリング。
新しい世界を知る面白さに満ちている。
またお馴染みの映画のロケ地巡りも、相変わらず興味深い。
そうやって、ひとつひとつのエッセイをじっくりと味わうことで、至福の時間を過ごすことができた。
それは川本氏に同化して、ともに旅をする、疑似体験としての旅でもあった。
その余韻を慈しみながら、しみじみと浸っている。

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テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌

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