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Category: 日本映画

Tags: 新藤兼人  

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映画「愛妻物語」

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新藤兼人監督の第一回監督作品である。
新藤監督の最初の妻・久慈孝子さんとの結婚生活を描いたものである。
久慈孝子さんは新藤監督より4歳年下で、新興キネマ東京撮影所のスクリプター第一号となった女性であった。
しかし結婚後4年にして結核で急逝してしまう。
その鎮魂歌として書いたのが、「愛妻物語」であった。
この映画を監督するまでの新藤兼人は、売れっ子のシナリオライターであった。
しかし「愛妻物語」を書いた時、これは人の手に渡さず、自分が監督すべきだと考えたのである。
そうして実現したのが、この映画であった。

以前から観たいと思っていた映画である。
しかしなかなかその機会がなく、これまで観ることが叶わなかったが、先日何気なくYouTubeを覗いていると、偶然この映画に出会ったのである。
さっそく観ることにした。

主演は宇野重吉、妻役は乙羽信子である。
そしてこの映画が、新藤兼人と乙羽信子の初めての出会いでもあった。
当初、夫役の宇野重吉はすぐに決まったが、妻の孝子役がなかなか決まらなかった。
そこへ売り出し中のスター女優、乙羽信子が名乗りを上げた。
「愛妻物語」のシナリオを読んだ乙羽信子が、どうしてもこの役をやりたいと永田社長に直訴したのである。
当時映画会社では、スター女優には人妻役はやらせないという決まりがあった。
しかも「愛妻物語」の主人公は、最後には血を吐いて死ぬのである。
宝塚から引き抜き、「百万ドルのエクボ」として売り出そうとしていたスター女優の異例の申し出に会社側は驚いたが、結局最後は乙羽の情熱に押し切られることになったのである。
この時の出会いを、新藤監督は次のように書いている。

<乙羽信子がスタッフルームに入ってきて、「乙羽信子です。よろしくお願いします。」と言った時、わたしは思わずはっとした。久慈孝子が来たのかと思った。顔よりも雰囲気が似ていたのである。衣装調べで紺のスカートに白いブラウスを着せるとますますよく似てきた。>

そうして撮影は始まったのであるが、この初対面の強い印象は見事に映像化されており、乙羽の新妻役は初々しい魅力に溢れている。
シナリオ修行で挫折しそうになる夫を、励まし支える妻の健気さが、自然な明るさで演じられている。
そして、その明るさがあるからこそ、最後の悲劇がさらに痛切に響いてくることになるのである。

この映画の背景となっているのは、1942年(昭和16年)から1943年(昭和17年)にかけてのことである。
この年(昭和16年)に真珠湾攻撃があり、太平洋戦争へと突入していった時代である。

主人公の沼崎敬太は撮影所の脚本研究生である。
下宿先の娘、孝子とは恋愛関係にあるが、父親の反対にあって下宿を出ることになる。
そして孝子も沼崎の後を追って家を出て、ふたりの結婚生活が始まる。
しかし撮影所は戦争の影響によって規模を縮小、沼崎は人員整理の対象となってしまう。
そこで知り合いである京都撮影所の企画部長を頼って、京都に行くことになる。
そこで有名監督である坂口監督を紹介され、試しにシナリオを書かされることになるが、監督から「これはシナリオじゃない。ストーリーだ。」と突き返されてしまう。
自信を失った敬太だが、そんな彼を孝子は強く励まし、無給でもいいから撮影所で雇ってもらえるようにと頼み込む。
その結果、1年間という期限付きで撮影所で働くことが許される。
そこから敬太の懸命なシナリオ修行が始まり、孝子は内職によって敬太を支えていくことになる。
そしてついに坂口監督に認められるシナリオを書き上げることになるが、孝子は貧しさのなかでの無理がたたっためか、急性結核で喀血してしまう。

これはほぼすべてが実際に新藤監督が経験したことが下敷きになっている。
坂口監督は、新藤監督が師事した溝口健二がモデルであり、シナリオを突き返されたエピソードも、絶望した新藤監督を妻が励ましたのも、ほぼ事実通りのことである。
この時に近代劇集全43巻を、近所の古本屋から借りて読破したということを後に語っている。
結局この時代の修行が後のシナリオ人生の大きな糧になったのであり、そうした意味でも新藤監督にとっては忘れられない時代ということになる。
また戦争が日々激しくなっていく世相も同時に描かれており、そうした暗い時代の足音が、この映画に不気味な緊張感をもたらしている。
後日談として書くと、この翌年、昭和19年に新藤監督は応召されている。

初監督の意気込み、自らの貴重な青春の1ページの記録、そして亡き妻へのレクイエム、そうした様々な想いが込められた記念碑的な作品ということになる。
ここから100歳まで続く長い監督生活が、そして生涯を通しての同志とも云える乙羽信子との歩みの第一歩が、始まったのである。
そうした意味でも、新藤監督にとっては意味深い作品ということになる。

若さあふれる瑞々しい感覚は、今観ても色褪せていない。
ちなみにこの映画は、キネマ旬報ベストテンの第10位に選ばれている。


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