風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 短編小説集  

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佐藤泰志「海炭市叙景」

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佐藤泰志は、1949年(昭和24年)に函館市で生まれた。
高校時代から小説を書き始め、やがて小説家を志すようになる。
この時代に書いた小説が、ある受験雑誌で佳作となっている。
同時に佳作となったのが、現在小説家として活躍している宇江佐真理である。
最近読んだ「深川恋物語」、「余寒の雪」の作者である。
函館に暮らすふたりの高校生が、ともに受賞、そしてどちらも後に小説家となったのである。
興味深いエピソードである。
しかし1990年、佐藤泰志は41歳で自ら命を絶ち、やがて忘れられた作家となってしまった。
ところが近年、再評価されるようになり、小説の復刊が相次いでいる。
また「海炭市叙景」と「そこのみにて光輝く」が映画化された。
死後、20年以上を経てこうした人気を得るというのは、まれなことではなかろうか。
何がそうさせるのか、そしてその魅力とは何なのか、興味を引かれて読んでみた。

「海炭市叙景」は函館をモデルにした架空の街「海炭市」を舞台に書かれた連作短編集である。
「海炭市」は造船と炭鉱に依存した人口20万ほどの地方都市である。
しかし炭鉱は閉山に追い込まれ、造船所は合理化の波で大きく揺れており、かつての賑わいを失っている。
そうした街に生きるごくありふれた人々の姿を描いたのが、この小説である。

短く簡潔で無駄を省いた文章が、リズムよく刻まれていく。
その心地良いリズムに身を任せているうちに、知らず知らずに「海炭市」の街中へと誘われていく。
そしてそこに登場してくる人物たちに、まるで旧い知人と遭遇したかのような懐かしさを感じるのである。
そんなリアリティと親密さに満ちている。
と同時に彼らが抱えもつ痛みや迷いにも、寄り添いたくなるような親密さを覚えたのである。

それにしても「海炭市」とは何と詩的な名前であろうか。
この名前だけで、もうすでに小説世界へと惹きつけられてしまう。

映画ではその暗く淋しい世界に息苦しさを覚えたが、小説ではそうしたものを感じることはなかった。
それは抑制された文章が紡ぎだす潔さが、閉塞した世界に一種爽快な気分を醸し出しているからなのだろう。
そのため暗く淋しい世界ではあっても、そこに何か突き抜けたような明るさを感じ取ることができたのだ。

この小説は、当初36の短編から成る物語世界が構想されていたそうだ。
しかしそれは作者の自死により実現されずに終わっている。
書かれた18篇は、冬から春に至る季節である。
そして書かれなかったのは、夏から秋にかけての物語であった。
果たしてどんな話が展開されることになっていたのだろうか、そんなことを空想しながら読んでみるのも一興かもしれない。

小品ながら愛しさを覚えるような小説、繰り返し読みたくなる小説であった。


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