西村賢太「棺に跨る」

先日読んだ「歪んだ忌日」と同時期に出された短編集である。
奥付を見ると2013年4月となっている。
「歪んだ忌日」が2013年6月の出版なので、その直前ということになる。
読む順番が逆になってしまったわけだ。
「棺に跨る」「脳中の冥路」「豚の鮮血」「破鏡前夜」の4篇から成る秋恵ものの連作短編集である。
例のごとく貫多と秋恵の歪な同棲生活が描かれているが、内容はこれまで読んできたものと重なる。
相変わらず自分勝手な貫多の右往左往する心の動きと、それに対する秋恵の反応が面白い。
結局最後は破局を迎えることになるのだが、全編それを予感させながら淡々と話が続いていく。
「今更ながらに随分と粘着質な道行だと、些か呆れてもいる。」というのが作者の言であるが、それをまた飽きもせず読むほうも、案外と同様の傾向があるのかもしれない。
しかしそれでいて面白く読ませてしまうのは、やはり西村賢太の筆力のなせる業。
「最早、脱け出すことも叶わぬ深さにさしかかっている」のかもしれない。


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