風に吹かれて

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Category: 読書

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中島らも「今夜、すべてのバーで」

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中島らもが階段から転落して亡くなったのは2004年のこと、もうすでに10年が経っている。
彼について憶えていることといえば、朝日新聞で連載されていた「中島らもの明るい悩み相談室」であった。
時々それを読むことがあり、そのバカバカしくも意表を突いた回答にはいつも笑いを誘われていた。
そしてその常識に囚われない奇抜な発想と、ユニークな笑いのセンスから伝わってくるのは、彼の奇才ぶりであった。
こういう回答をする人物とは、果たしてどんな人物なのか、大いに好奇心を掻き立てられたものである。
そんな折偶然テレビに登場した彼の姿を見ることがあったが、呂律の回らない喋り方で、冗談とも本気ともつかない話をする姿は、まさにイメージに違わぬ奇才そのものの姿であった。
そんな強烈な個性を持った彼が1991年に書いた小説が、「今夜、すべてのバーで」であった。

中島らもは放送作家、コピーライター、小説家、エッセイスト、演出家、ミュージシャンと様々な顔を持っている。
そして売れっ子作家になってからは、依頼された仕事を片っ端から引き受けるという生活で、それをこなすためにアルコールの助けを借りるということを繰り返している。
その結果、アルコール依存症となって倒れてしまうのである。
その時の入院生活の体験を基に書いたのが、この小説であった。

主人公の小島容は、毎日ウイスキーをボトル1本以上空けてしまうといったアル中男である。
彼は医者、占い師、親友の3人から「35歳で死ぬ」と予言されていた。
そしてその予言通り35歳の時、這うようにして病院にたどり着き、医者から「生きているのが不思議なくらい」と言われてしまう。
当然のことながら即入院であった。
そして40日間にわたる闘病生活を送ることになる。
その顛末が、時にシリアスに、時にユーモラスに描かれていくが、なかでもアル中に関する様々な考察が格別面白い。

「35歳で死ぬ」と予言された主人公は、自分なりに「アル中」に対してのアンテナを張るためと称しては、膨大な資料を読み漁っている。
<肝硬変が悪化して静脈瘤や胃かいようが破れ、大量出血してもまだ飲んでいるような人間を、本の中に探し求める。
これらの人々を眺める安心感と、こういう「ひとでなしのアル中」どもが、河ひとつ隔てた向こう側にいて、おれはまだこっち側にいるその楽観とを得るために、おれは次から次へとアルコール中毒に関する資料を集めた。>
しかしそんな知識をいくら仕入れようとも、まったく何の役にも立たない。
所詮それは自分が「まだ飲める」ことを確認するためだけの手段でしかなかったのである。

とにかくこうした依存症がいかにやっかいなものかという事例が、これでもかというように次から次へと引用されていく。
当然そこには、有名なジャンキーたちも登場してくる。
ウイリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグ、アントナン・アルトー、プレスリー等々、あたかもジャンキー読本とでも呼びたいような趣である。

しかしこうして読み進んでいくうちに、他人事と笑ってばかりはいられないという気がしてくる。
結局人間とは、何かに頼らざるをえない弱い存在なのである。
それがふとしたきっかけで薬に依存したり、アルコールに依存したりということになってしまう。

<酒の味を食事とともに楽しみ、精神のほどよいほぐれ具合をよしとする人にアル中は少ない。そういう人たちは酒を「好き」ではあるけれど、アル中にはめったにならない。
アル中になるのは、酒を「道具」として考える人間だ。おれもまさにそうだった。この世からどこか別の所へ運ばれていくためのツール、薬理としてのアルコールを選んだ人間がアル中になる。
肉体と精神の鎮痛、麻痺、酩酊を渇望する者、そしてそれらの帰結として「死後の不感無覚」を夢見る者、彼等がアル中になる。これはすべてのアディクト(中毒、依存症)に共通して言えることだ。>

理屈ではない人間の弱さ、複雑さを痛感してしまう。
そしてこうした摩訶不思議な世界が、けっして遠くない所にしっかりと控えていることを、この小説は教えてくれているのである。
無縁と思っていても、案外と近いところにそれはある。
心すべきである。

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