風に吹かれて

My Life & My Favorite things

Category: 読書

Comment (0)  Trackback (0)

ねじめ正一「荒地の恋」

Yc39MhTzdAWcoFN1407392667_1407392708.jpg

かつて、田村隆一という詩人がいた。
そして北村太郎という詩人がいた。
現代詩の世界についてはあまり詳しくはないが、それでも学生時代にはいくらかの関心は持っていた。
このふたりの詩人も名前だけは知っていた。
とくに田村隆一は戦後を代表する詩人で、そのダンディーさを買われてテレビCMにも登場したことがあるので、知っている人も少なくないのではなかろうか。
それに比べると北村太郎は地味な存在で、それほど知名度は高くない。

ふたりはともに詩誌「荒地」の同人である。
そして中学時代以来の親友でもある。
生涯切っても切れない関係を持ち続けた人たちである。
そんなふたりだが、北村太郎が田村隆一の妻明子と不倫に陥ってしまう。
北村太郎53歳の時のことである。
それをきっかけに彼は家族を捨てて家を出る。
また朝日新聞の校閲部長という職も捨ててしまう。

こうした不倫の行きつく先は、ドロドロとした抜き差しならぬ愛憎劇になるのが相場だが、この場合はそうはならない。
北村太郎に対する田村隆一の態度は、不倫前といささかも変わらない。
そもそも明子が北村のもとに走ったきっかけは、酒や女にだらしないという田村の癖の悪さに端を発していた。
それに悩まされた明子が、救いを求めるように北村との恋に落ちたというわけである。
しかしその関係はいつまでも続かず、やがて終わりの時を迎えることになる。
そしてそのきっかけとなったのも、またもや田村であった。
明子が家を出ていった後、家事もできない20代の女性と同棲を始めるが、その生活が破綻、アルコール依存による肝機能の悪化という事態に至ったからであった。
精神に異常を来しながらも、明子は田村のもとへと帰っていく。
しかしひとりになった北村は家族のもとに帰ることはなかった。
不倫をきっかけに手に入れた自由な生活は、その後も変わりなく続いていく。
やがて彼には詩の朗読会で出会った若い恋人ができる。
そしてその恋人に見守られながら69年の生涯を閉じることになる。

熟年の恋を描いたこの小説は、事実をもとに書かれたものである。
それを同じ詩人のねじめ正一が、詩人の視点で描いている。
大人の恋なので激情に流されるといった恋ではないが、それにしても仕事も家族も捨ててとなると、これは余程のことである。
理性的な北村のなかで、果たして何があったというのだろう。
しかもそれはごく短い期間で終わりをみている。
そしてその後は友人としての親しい関係が続いていくことになる。
結局北村は、恋というよりも、詩に殉じたということになるのではなかろうか。
かつて書き溜めた作品を全詩集としてまとめた時、友人から「たったこれだけかあ」と驚かれたことがあった北村だが、明子との恋を契機に一気に作品の数を増やしていったことからもそれは窺える。
詩を書くために恋をしたというわけではないだろうが、結果としてそうなったということである。
恋は詩人に豊穣なる作品世界をもたらす。
大いなるエキスだったということになる。

それにしてもここで描かれる詩人たちの世界の何と魅力的なことか。
そんな詩人たちの破天荒で個性あふれる生き方を見るだけでも、この小説を読む値打ちがあるというものだ。

最後に北村の印象に残った詩の一節を書いておく。
これを読むと、他の詩も読んでみたくなる。
機会があれば北村のみならず、田村の詩、鮎川信夫の詩なども読んでみたいものだ。

「なんと遠くへ来たことか 冬の山林 小道をゆっくり登ってゆく 一個の骸骨」



にほんブログ村 本ブログへ 
↑ クリック、お願いします。 ↑
スポンサーサイト

Newer Entryお盆休みの今日は Older Entry虫よけリング
Comments






カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
性別:男

還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

映画サイト「マイ・シネマ館」もやっています。
こちらもよろしく。

ランキングサイトに参加しています。
もしよければクリック、お願いします。↓
ブログランキング・にほんブログ村へ 

cooldaddyの本棚
FC2ブログランキング
ブログ内検索
QRコード
QRコード

12345678910111213141516171819202122232425262728293011 2017