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Tags: 藤沢周平  時代小説  短編小説集  

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藤沢周平「隠し剣 孤影抄」「隠し剣 秋風抄」

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隠し剣シリーズには「孤影抄」と「秋風抄」がある。
1976年から1980年まで断続的に発表されたシリーズで、都合17編が書かれており、それが「孤影抄」と「秋風抄」の2冊に纏められた。
「孤影抄」は以前読んだことがあるが、「秋風抄」は今回初めて読む。
そこでこの機会に「孤影抄」も再読してみることにした。
同じシリーズなので通して読むと、また違った面白さが味わえるのではないかと考えたからである。

「孤影抄」には「邪剣竜尾返し」「臆病剣松風」「暗殺剣虎ノ眼」「必死剣鳥刺し」「隠し剣鬼ノ爪」「女人剣さざ波」「悲運剣芦刈り」「宿命剣鬼走り」の8編が収録されており、「秋風抄」には「酒乱剣石割り」「汚名剣双燕」「女難剣雷切り」「陽狂剣かげろう」「偏屈剣蟇ノ舌」「好色剣流水」「暗黒剣千鳥」「孤立剣斬月」「盲目剣谺返し」の9編が収録されている。
このうち「必死剣鳥刺し」「隠し剣鬼ノ爪」、そして「盲目剣谺返し」が、それぞれ映画化されている。
やはりこうした剣戟ものというのは、ドラマチックで、しかも手に汗握るアクションもありといったことで、映像化するにはうってつけということになるのだろう。

いずれの主人公も微禄の下級武士である。
しかし剣術では秀でた才能を持っている。
そうした主人公が、ある者は上司の命令で、またある者は遺恨によって、その剣を使わざるをえない状況に陥ってしまう。
そして命をかけた戦いへと立ち向かっていく。

いずれも劇的な物語ばかりで胸躍らせて読んだ。
なかでも「孤影抄」では、「暗殺剣虎ノ眼」「女人剣さざ波」「宿命剣鬼走り」、「秋風抄」では、「暗黒剣千鳥」「孤立剣斬月」「盲目剣谺返し」などが印象に残っている。

「暗殺剣虎ノ眼」は、行状を批判された藩主が、虎ノ眼という秘剣を使う刺客を放つ話で、ミステリー仕立てで展開していく。
そして最後に意外な事実が浮かび上がり、思わずドキッとさせられる。

「女人剣さざ波」は、窮地に陥った夫の身代わりに果し合いをする妻の話。
藩の重役の命令で、政敵の動向を探る役目についた浅見俊之助は、相手に気づかれ、政敵が差し向けた刺客と果し合いをしなければならなくなる。
剣の腕には自信のない俊之助は、死を覚悟して果し合いに臨むことにする。そしてそのことを妻の邦江に告げる。
それを聞いた邦江は、夫には内緒で、身代わりとして果し合うことを決意する。
邦江は、さざ波という秘剣を遣う剣の名手であった。
実は俊之助と邦江の夫婦仲は、冷めたものであった。
それは邦江が美貌にはほど遠い醜貌ということが、大きな原因であった。
そうした夫婦仲が、この事件をきっかけに好転しそうな気配を残して物語は終わる。

そして「宿命剣鬼走り」は、小関十太夫と伊部帯刀との長年にわたる因縁話である。
小関十太夫と伊部帯刀は、若い頃、同じ道場に通う好敵手であった。
そしていずれもが、同じ女性に想いを寄せるようになったことから、反目し合うようになる。
それがきっかけとなって、その後様々な軋轢を生み、いつ果てるともない悪縁が続いていくことになる。
その最大の事件が、双方の息子同士の果たし合いであった。
さらにその後、小関十太夫の娘の出奔と惨殺、また次男の自害といった事件へと続き、その結果どちらも家の断絶という最悪の事態にまで陥ってしまう。
そして最後は、その宿命に終止符をうつかのような両者の決闘ということになってしまう。
悲惨な話である。しかしそれだけにそこで展開される重厚な人間ドラマには、深く魅了される。

さらに「暗黒剣千鳥」と「孤立剣斬月」は、迫り来る敵を命を懸けて迎え打つという話である。
「暗黒剣千鳥」では正体が知れない敵がいつ襲ってくるか判らぬ恐怖を、「孤立剣斬月」では上意討ちにした相手の息子が江戸から帰国後に、果たし合いを挑んでくるといううわさ話を聞かされた主人公が、刻々とその時が迫り来るなかで苦悩する姿が描かれている。

藤沢周平の小説には、映画からヒントを受けて書いたのではないかと思われるものが時々見受けられる。
これらの作品もそうしたもののひとつではないかと想像している。
連想したのは、「真昼の決闘(ハイ・ヌーン)」であった。
とくに「孤立剣斬月」は、「真昼の決闘(ハイ・ヌーン)」そのもの。
自分より腕の勝る相手が、いずれ自分の前に現れて果し合いを挑んでくる。
それが分っていながら、どうすることもできない。
周囲に助けを求めようとするが、誰ひとりとして助勢を申し出る者はいない。
孤立無援の中、死を覚悟して敵を待ち構える。
刻一刻とその時が近づいてくる。
まさに「真昼の決闘(ハイ・ヌーン)」同様の展開であるが、しかしこうして読んでみると、それとはまた違った、藤沢周平らしい味わいのある世界が展開されていくのである。
西部劇の世界が、換骨奪胎されて見事な時代小説に姿を変えているのである。

そして最後が「盲目剣谺返し」である。
これは映画「武士の一分」の原作である。
映画を観て内容はすべて分っているつもりであるが、こうして読んでみると、映画とはまた違った小説のもつ魅力を、味わうことができた。
とくに最後に妻を許す場面では、分っていながらも胸が熱くなってしまった。
こういう場面での藤沢周平の技の冴えは、見事というほかない。
分っていても泣かされてしまう。
そしてほのぼのとした気持ちにさせられてしまうのである。
武士が命を賭けて事を成し遂げた後だからこそ、こうして訪れた安らぎは、より価値のあるものとして、値千金の輝きを放つ。
緩急、動と静の見事な対照、そしてそこから滲み出てくる滋味溢れる人生の味わい、こうした熱いものを味わえるから、藤沢周平の小説を読み出すと止められなくなってしまうのである。
同時に<小説を書くということはこういう人間の根底にあるものに問いかけ、人間とはこういうものかと、仮の答えを出す作業であろう。>「周平独言」という言葉を心底実感する瞬間でもある。


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