風に吹かれて

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Category: 日本映画

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映画「風立ちぬ」

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何よりも絵が素晴らしい。
大正から昭和にかけての東京の町並みの美しさ、ノスタルジックでどこか異国情緒を感じさせる佇まい。
さらに物語の発端となる関東大震災の凄まじい迫力。
地震が獣のように襲いかかってくる様は、先の東北大震災を連想させて思わず身が引き締まった。
そしてそのなかを逃げ惑う大群衆の精緻な描き方。
手書きアニメの究極ともいえるような描写に心底圧倒されてしまった。
こうした力強い映像に引きずられ、あっという間に物語の世界へと没入していった。

また美しい自然描写や空飛ぶ浮遊感はこれまでの宮崎アニメ同様で、いやそれ以上に楽しませてくれた。
なかでもさまざまに表情を変える風の描写はとくに印象的だ。
見えない風を描く事が宮崎アニメの重要なファクターだと、どこかで読んだ記憶があるが、なるほどそれが納得できる描き方である。
さらにその風を物語の重要な道具立てとして使う演出もニクい。
風で飛ばされた帽子を掴まえる出会いのシーン、さらに再会のシーンでは突風に飛ばされたパラソルがその仲介をする。
使い古された描写ではあるが、それが主人公ふたりの古典的な恋愛によく似合う。

考えてみればジブリの最初のオリジナルが「風の谷のナウシカ」であったが、「風」のついたタイトルはそれ以来のことになる。
しかも宮崎アニメの最初と最後の作品にそれが使われたところに、特別の意味を感じてしまう。
そういえば、スタジオの名前である「ジブリ」も「熱風」という意味で、これも風に関連したものである。
まさに風の集大成ともいえる作品である。
さらにいえば空を飛ぶことの集大成でもある。

物語は零戦の設計者である堀越二郎の半生と、堀辰雄の小説「風立ちぬ」を合わせて紡ぎ出されたものである。
戦争という激動の時代に、飛行機の設計を夢見た青年がそれを着々と実現していく姿が描かれている。
そのなかで魅力的な人物たちと出会う。
飛行機設計の夢のきっかけとなったイタリアの飛行機設計家ジャンニ・カプローニ、飛行機設計のライバルであり親友でもある本庄、上司の黒川、謎のドイツ人カストルプ、そうした人物たちとの幸せな出会いが二郎の技術と成長を支えていく。
そしてもっとも重要な恋人、菜穂子との出会いと別れ。
この部分は堀辰雄の小説「風立ちぬ」をベースに展開されていく。

その愛の物語は、これがアニメかと思わせるような叙情性と官能性に満ちている。
なかでも上司の黒川の屋敷であげるふたりだけの婚礼は、息を飲むような美しさであった。
これは間違いなく宮崎アニメが初めて描いたメロドラマである。
そうした意味でも、この作品はこれまでのジブリ作品とはいささか肌合いを違えている。
さらに堀越二郎の半生に宮崎駿のアニメ人生をダブらせたような描き方も、これまでの宮崎アニメとは一線を画すものである。
もちろんこれまでの作品においても宮崎駿個人の趣味的なもの、拘りの数々が詰め込まれてはいるが、今回はそれとはまた違った人間・宮崎駿の心情が覆い隠すことなく吐露されているのである。
堀越二郎の美しいもの、より良いものを作り上げようとする情熱と努力、好きなことを精一杯追求しようとする姿勢、そこに同じ技術者としての宮崎駿の共感と賛同が込められている。
それは宮崎駿の50年に渡るアニメ人生ともダブるものである。

初号試写を観て宮崎駿は涙を流したそうだ。「自分の作った映画を観て泣いたのは初めて」だという。
言葉に尽くせぬさまざまな思いが去来したのだろう。
きわめて印象深いエピソードである。
そうしたことを考えてみても、宮崎アニメの最後を飾るのにこれほど相応しい作品はないのではないか。
そして72歳という年齢にもかかわらず、まだまだ少年のような瑞々しい感性を持ち続けている宮崎駿の引退は惜しんで余りある。
と同時にそこにはやり遂げた後の清々しさも感じられる。
それは物語の最後で二郎とカプローニが草原の風に吹かれながら語り合うシーンともダブってくる。
この映画のキャッチコピー「生きねば。」が自然と胸に染み入ってくる。
「風立ちぬ、いざ生きめやも」(ポール・ヴァレリー)なのである。





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