風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 村上春樹  

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村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、 彼の巡礼の年」

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図書館で長く予約待ちをしていたが、ようやく順番が廻ってきた。
出版されたのが今年の4月だから、4ヶ月近く待ったわけである。
それでも予約を入れたときには、すでに30数人の予約待ちがいたので、もっと時間がかかるものと思っていた。
おそらく半年以上は待つのではないかと覚悟をしていただけに、予想外に早かったなというのが実感である。
さっそく読んでみた。

主人公は多崎つくる、36歳、東京の鉄道会社に就職し、駅舎を設計管理する仕事をしている。
彼は大学2年生のとき、高校時代に親しくしていた友人4人から理由も告げられないまま突然絶交を言い渡された。
以来それがトラウマとなって人と自然に交われないものを持ち続けている。
2歳年上の恋人沙羅はそんな彼の過去を知り、どうして彼らから絶交を言い渡されたのか「あなた自身の手でそろそろ明らかにしてもいいじゃないかという気がするのよ」と告げられる。
「あなたは何かしらの問題を心に抱えている」「あなたはナイーブな傷つきやすい少年としてではなく、一人の自立したプロフェッショナルとして、過去と正面から向き合わなくてはいけない。自分が見たいものを見るのではなく、見なくてはならないものを見るのよ。そうしないとあなたはその重い荷物を抱えたまま、これから先の人生を送ることになる」
その忠告に背中を押されるように、真相を知るための旅が始まるのである。

高校時代の友人は赤松、青海(おうみ)、白根、黒埜(くろの)という4人の男女で、偶然にも全員の名前に色がついており、そのことからお互いをに「アカ、アオ、シロ、クロ」と呼び合っていた。
だが、ただひとり多崎つくるだけが色とは無縁な存在であった。
「そのことでつくるは最初から微妙な疎外感を感じることになった。もちろん名前に色がついているかいないかなんて、人格とは何の関係もない問題だ。それはよくわかる。しかし彼はそのことを残念に思ったし、自分でも驚いたことに、少なからず傷つきさえした。」
それがタイトルにある「色彩を持たない多崎つくる」ということの意味であり、そのことで彼は「人に誇れるような、あるいはこれと示せるような特質はとくに具わっていない。少なくとも彼自身はそのように感じていた。すべてにおいて中庸なのだ。あるいは色彩が希薄なのだ。」と感じていた。
そしてその思いは絶交を告げられたことで決定的なものとなり、その後は色を失った人生を生きていくことになる。
そんな彼が巡礼の後に、果たしてどこかにたどり着くことができるのか、またたどり着くことができないのか、そうした姿が静かに描かれていく。

これは「ノルウェイの森」や「国境の南、太陽の西」に連なるリアルな世界の物語である。
そしてそれらの小説同様に、10代後半の苦い記憶がその後の人生の核になっている。
それが繰り返し語られている。
いったい村上春樹の青春前期に何があったというのだろう。
拘らずにはいられない強烈な何かがあったということなのか。
いずれにしろ、そこが彼にとっての原点ということになるのだろう。
しかし考えてみれば、自分にもそれに近いものがあることに気づく。
具体的に何がどうだというわけではなくとも、私にとってもその時代が出発点であり、原点であることに思い至るのである。
何か事がある度に思考がその時代に行く着く。
それが習い性のようになっている。
ましてや主人公の多崎つくるの場合、それが生死を分かつほどの苦しみであったのだからなおさらのことである。
そして巡礼の旅のなかで謎が少しずつ紐解かれてゆき、そして溶解し、古い傷が癒されていく。

<人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ。悲痛な叫びを含まない静けさはなく、血を地面に流さない赦しはなく、痛切な喪失を通り抜けない受容はない。それが真の調和の根底にあるものなのだ。>

<生き残った人間には、生き残った人間が果たさなくちゃならない責務がある。それはね、できるだけこのまましっかりここに生き残り続けることだよ。たとえいろんなことが不完全にしかできないとしても>

<人生は複雑な楽譜のようだ、たくさんの奇妙な記号と、意味不明な書き込みとで満ちている。それを正しく読み取ることは至難の業だし、たとえ正しく読み取れたとしても、またそれを正しい音に置き換えられたとしても、そこに込められた意味が人々に正しく理解され、評価されるとは限らない。それが人を幸福にするとは限らない。>

印象的な言葉が続く。

「巡礼の年」とはリストのピアノ曲のことである。
そしてそのなかの一曲「ル・マル・デュ・ペイ」が物語の背景にBGMのように静かに流れ続けている。
曲名の意味は、「田園風景が人に思い起こす、理由のない悲しみ。ホームシック、あるいはメランコリー。」
いつものようにここでも音楽が主要なテーマになっている。

「しかしいずれにせよ後戻りはできない。封を切ってしまった商品の交換はできない。これでやっていくしかない。」のである。
そのことをこの小説は改めて実感させてくれたのであった。


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テーマ : 現代小説  ジャンル : 小説・文学

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