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Category: 日本映画

Tags: 西村賢太  

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映画「苦役列車」

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第144回芥川賞受賞作品、西村賢太の「苦役列車」を山下敦弘監督が映画化、西村賢太、山下敦弘いずれのファンでもある身とすれば、まっさきに観なければいけない映画のはずだが、封切後1年近くになり、レンタルDVDが出てからもかなりの時間が経っているが、それでもなかなか手を出せないでいた。
それは、まったくドラマチックでないこの小説をどうやって映画として成立させるのだろう、原作のよさを損なわずに映画化することが果たしてできたのだろうか、そんな危惧が先走っていたせいである。多分。
ところがそれはまったくの杞憂であった。
さすがは「どんてん生活」「ばかのハコ船」「リアリズムの宿」という「ダメ男三部作」を撮った監督である。
主人公、北町貫多の自堕落で出口の見えない惨めな生活を、くそリアリズムすれすれのリアルさで描き出し、原作とはまた違った、映画としてのおもしろさを絶妙に表現していたのである。

性犯罪者の父をもち、中卒で友人も恋人もおらず、わずか19歳という若さですでに社会からドロップアウトしてしまった北町貫多の彩りのない生活、そこにわずかな光が差し込んできたような専門学校生・日下部正二(高良健吾)との出会い、さらには彼の助けを借りて憧れ続けていた少女、桜井康子(前田敦子)とも知り合うことができた。
惨めで変わり映えのしない日常に突然現れた一条の光と陰が、おかしさと切なさを交えながら描かれていく。
だがそんな心楽しい日々も長くは続かなかった。
結局、日下部も康子もともに、優雅なモラトリアムを生きているだけの学生たちで、貫多とはその立位置がまったく違っている。
そこは貫多には決して立ち入ることのできない世界であり、時間が過ぎれば彼らは貫多の前から飄然と姿を消し、貫多とは無縁の世界に住むことになる者たちなのである。
そのことを思い知らされると、光は一瞬にして輝きを失ってしまう。
そしてまた元の暗い穴倉生活へと戻って行かざるをえないのである。
いかに蔑もうと、いかに否定しようと、仕事上の事故で足の指を失い、日雇いということで労災も出ないまま職場を去らざるをえなかった高橋こそが、貫多にとっては同じ世界に生きる同類であり、自らの将来を暗示させる人物なのである。
そこに自らの将来を重ね合わせて絶望に打ちひしがれてしまうのである。
だが3年後、テレビの素人歌番組で懸命に歌うその高橋の姿を偶然目にしたことで、貫多のなかで何かが変わり始める。
このエピソードは原作にはない。
マイ・バック・ページ」でも同様に描かれたシークエンスのリフレインであるが、この後日談が挿入されたことで、この映画を単に苦く暗いだけの映画ではなく、後味のいいものとして終わらせているのである。

高橋を演じたマキタスポーツが素晴らしい。
この映画で初めて知った俳優だが、何ともいえない、いい味を出している。
ちなみにマキタスポーツについて調べてみると、ものまねネタをもつお笑いタレント兼歌手である。(映画のなかでもその得意の歌を披露している。うまい。)
そしてこの映画でブルーリボン新人賞・東京スポーツ映画大賞新人賞を受賞している。
さすが見ている人は見ているもので、この映画での彼の存在感は圧倒的であった。新人賞受賞は当然だろう。
いずれにしても山下敦弘監督は、こうした無名俳優を見つけ出すのが、ほんとうにうまい。
毎回その使い方には驚かされるが、この映画ではマキタスポーツのほかにも貫多の元彼女とその彼氏を演じた俳優たち(名前は特定できなかったが)も素晴らしかった。
だがそれ以上に主人公、北町貫多を演じた森山未來の素晴らしさは特筆である。
どうしようもないダメ男、北町貫多を絶妙に演じ、図々しくも恥知らずな19歳のリアルな青春を痛々しくも見事に演じ切っている。
孤独でやり場のない焦燥のなか、常に苛立ち、何かといえば悪態をつくダメ男、そしてその気持ちを紛らわすためにアルコールや風俗へと走ってしまう。
その場限りの惨めで短絡的な姿、それを見るにつけて、何と最低で嫌な奴だと嫌悪感いっぱいになったが、そこに見え隠れする必死で切実な心情に気づかされるにしたがって、次第に印象が変わっていった。
そして最後は貫多のこれからの人生に幸多かれと祈らずにはいられない気持ちになっていったのである。

若さという荒ぶる魂、それをコントロールする術を知らず、閉塞した世界から抜け出すことができず、闇雲にもがき続けるしかない恥多き青春、それを優しく描き続けるのが山下敦弘監督の映画の大きな特徴である。
そうした彼のフィルモグラフィーに、これでまた大きな勲章がひとつ増えたのを感じる。
間違いなく代表作のひとつになる。大きな拍手を贈りたい。


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