風に吹かれて

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Category: 外国映画

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映画「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」

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この映画には数々のメタファーが散りばめられている。
それを読み解いていくのもこの映画を観る楽しみのひとつだが、それを別にしてもじゅうぶんに楽しめる映画であった。

とにかく映像の素晴らしさには驚いてしまう。
それだけでもこの映画を観る価値があるというもの。
とくにCGで作られたトラの映像は凄い。
最初は疑いもせずに本物のトラだとばかり思って見ていた。
どうすればこういう演技をやらせることができるのだろう。
そう考えていたが、それがCGだったとは。
まったく驚きである。
その動きは自然で、とてもCGとは思えない。
だがそんな見事なトラが、実はCGによる技術によって生み出されたものだったのである。
CGの技術はついにここまできた。
そんな驚きが、この映画によってもたらされたのであった。
アカデミー賞で視覚効果賞を受賞したのも当然のことだと頷ける。
ちなみにこの映画は視覚効果賞以外にも、監督賞、作曲賞、撮影賞を受賞している。

ところでこの不思議な映画を読み解く数々のメタファーが映画のそこここに散りばめられていると書いたが、それを映画評論家の町山智浩氏は次のように書いている。

まず主人公の名前「パイ」は円周率から採られているが、これは割り切れないもの、答えの出ないもの、人生の意味や世界という正解のないものへの終わりのない問いかけを意味している。
パイは父親を失い、寄る辺なき世界でサバイバルせざるをえない状態に陥らされているが、すなわちそれは精神的な放浪を象徴している。
さらにトラはパイの精神の内部にある荒らぶるもの(怒り、怨み、獣性、暴力)の象徴であり、それをいかにして飼いならし、コントロールするか、それがこの物語の骨子になっている。
またパイが辿り着いた島で見たミーアキャットの大群は、何かを盲信する大衆の象徴である。
そうしたメタファーから読み解けるのは哲学的、宗教的な寓話ということになるのだと、町山氏は解説している。
なるほど物語の前半、漂流するまでのパイの少年時代から現在までの物語が長々と語られるのも、こうした解釈のための下準備であったわけだ。
またパイがヒンズー教、イスラム教、そしてキリスト教の3つの宗教を同時に信仰するのも、この物語を読み解くための重要な要素になっている。

いずれにしてもこの映画は複雑な多重構造になっており、さまざまな解釈が可能な幅の広さを備えているということになる。
しかしそうしたことを抜きにしても、この映画は充分すぎるほど楽しめるものを持っている。
オーロラのように輝くプランクトン、巨大なクジラの飛翔、鏡のような海面に映る空、そして満天の星空の美しさ、そうした映像を見ているだけで現実世界とは微妙にずれた、ファンタジーの世界の不思議さに心奪われてゆく。
まさしく異次元世界への旅を体験させてくれる心躍る映画になっている。
そのことだけでも充分に満足させられたのであった。

監督のアン・リーは「ブロークバック・マウンテン」に続いてのアカデミー監督賞の受賞になる。
今や、押しも押されもせぬ世界的な名監督である。
彼の映画は、初期の「推手」から始まり「ウェディング・バンケット」「恋人たちの食卓」「いつか晴れた日に」「アイス・ストーム」「グリーン・デスティニー」「ハルク」「ブロークバック・マウンテン」そして今回の「ライフ・オブ・パイ」とほぼすべてに近い作品を観ているが、いずれも質の高い作品ばかり。
しかも一作ごとにまったく違った世界を見せてくれている。
背景となる舞台も台湾、中国、イギリス、アメリカ、インドと作品ごとに目まぐるしく変化をする。
そんな多様で不思議な映画世界を体験をさせてくれるのがアン・リーという監督なのである。
こうなるとこの先いったいどんな世界を見せてくれるのか、ますます次への期待が高まってくるのである。

最後にもうひとつミニ知識として書くと、この映画の原作は2002年にブッカー賞を受賞したヤン・マーテルの「パイの物語(Life of Pi)」。
ブッカー賞というのは、その年に出版された最も優れた長編小説に与えられるイギリスの文学賞である。
さらに主人公パイとともに漂流するベンガル・トラには名前がつけられており、その名は「リチャード・パーカー」。
これはエドガー・アラン・ポーの小説、「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」のなかに登場する人物の名前から採られたものである。
この小説は海難事故で遭難した4人の男の物語で、ボートで漂流しているうちに食料がなくなり、そのため生贄となる人間をくじ引きで選ぶことになる。
そしてクジに負けて食われることになったのがリチャード・パーカーという男であった。
この話には後日談があり、小説発表から47年後の1884年、これと似た事件が実際に起きている。
それは「ミニョネット号事件」と呼ばれる海難事故で、イギリスからオーストラリアに向けて航海中のミニョネット号が難破し、乗組員4人が救命ボートで脱出、漂流20日目に、衰弱した17歳の乗組員が殺害され、他の3人の食料となった。
その少年の名前がリチャード・パーカーであった。
何とも奇妙で摩訶不思議な偶然の一致である。
そんな情報を知ることで、この映画の世界がさらに広がって見えてくる。


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