風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 藤沢周平  時代小説  

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藤沢周平「風の果て」

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久しぶりに藤沢周平の小説を読んだ。
「風の果て」である。
軽輩の子として生まれた若者、上村隼太が様々な苦難の末に筆頭家老にまで至る道筋を、同じ道場で学んだ野瀬市之丞、杉山鹿之助、寺田一蔵、三矢庄六といった友人たちとの交流を通して描いた物語である。

人生には様々な分れ道がある。
そうした岐路に立ったとき、どの道を選ぶかで、その後の人生が変わっていく。
ある程度の年齢に達すると誰しもが等しく感じる感慨である。
そんな節目節目の分れ道を、主人公桑山又左衛門(若き日の上村隼太)と4人の友人たちの姿を借りて語られていく。
そこには幸運もあれば悲運もある。
野瀬市之丞は藩命で寺田一蔵を斬ることになり、上村隼太は杉山鹿之助(後の杉山忠兵衛)と政敵となって争わなければならず、さらに最後は野瀬市之丞から果し合いを挑まれるということになってしまう。
仲のよかった5人の若者たちが、それぞれに自らの人生を歩んでいくなかで、こうした不幸な出来事と遭遇しなければならなくなってしまうという皮肉。
何ともやるせないものがある。

そうした荒波からただひとり離れている三矢庄六と会った桑山又左衛門は

<「庄六、おれは貴様がうらやましい」
 と又左衛門は言った。
「執政などというものになるから、友だちとも斬り合わねばならぬ」
「そんなことは覚悟の上じゃないのか」
 庄六は、不意に突き放すように言った。
「情におぼれては、家老は勤まるまい。それに、普請組勤めは時には人夫にまじって、腰まで川につかりながら掛け矢をふるうこともあるのだぞ。命がけの仕事よ」
「・・・・・・」
「うらやましいだと?バカを言ってもらっては困る」>


また10年ぶりに出合った野瀬市之丞との次のような場面。

<「相手は二十石でも三十石でもいい。おれもさっさと婿に行くべきだったな。」
 と市之丞が言っている。本音に聞こえた。
「しくじった」
「おれもしくじった。」
「おまえはしくじったとは言えまい」
 語気鋭く、市之丞が聞きとがめた。
「いまは代官だ。やがて郡奉行になるのも間違いなかろう。何を言ってるんだ。のぞんだとおりになって来ているではないか。」
「・・・・・・」
 形だけはな、と隼太は思ったが、ここで妻の満江と気持ちが通じないなどということを、市之丞に言うつもりはなかった。
 だが、若いころのことを話しているうちに、秋葉町のはずれにある普請組組屋敷の前の路上で、庄六の嫁になる娘と一緒だった井上という家のつつましげな娘を見たことを思い出し、いまとは違う、平凡だが平穏無事な暮らしもあったかなという思いが、ちらと胸をかすめたことも事実である。しかし市之丞に言われてみると、それはただの感傷に過ぎなかったようでもある。
 それにしても、過ぎ去ったつつましい思い出が、消えるどころか、だんだん好ましさを増して思い出されてくるのはなぜだろうか。
「そうか」
 気を取り直して、隼太は言った。
「おれは、愚痴を言ったりしちゃいかんのだな。」
「愚痴なんぞ、言うな、おれも言わん。」
 市之丞が酔いの回った声で言った。
「おれはおれの道、おまえさんはおまえさんの道を行くしかない。ひとそれぞれだ。いちいち後悔してもはじまらん。」>


胸に迫るものがある。

どの道を行こうとも、結局人はみな幾ばくかの後悔を胸に歩いていくものなのである。
苦いものがある。

しかしこうして読んでいくと藤沢周平の小説はやはり深いものがある。
とくに描かれた人間の厚みや深さが尋常ではない。
抑えた筆運びながら、人間の本質に鋭く迫ってくる。
読者を惹きつけてやまないところである。

久しぶりに読んだ藤沢周平の小説にどっぷりと嵌り、さまざまな思いが駆け巡った。
またもういちど彼の小説を追いかけてみようかなと考えている。


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