風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 西村賢太  短編小説集  

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西村賢太「瘡瘢旅行」「小銭をかぞえる」

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この2冊の本に書かれた話はすべて夫婦喧嘩、いや実際には正式に結婚しているわけではないので、同居男女の痴話喧嘩というべきだろう。
女にもてず、彼女いない歴の長かった男が、ようやくにして巡り合った相手と同棲を始めるが、だらしなく思慮に欠けたダメ人間の彼は、ことあるごとに女とぶつかり、諍いを始めてしまう。
そうした不毛な諍いを、手を変え品を変えて書いたのが、この2冊の小説である。
西村作品のなかでは、「秋恵もの」として位置づけられているものである。

「瘡瘢旅行」のほうは表題作のほかに「廃疾かかえて」と「膿汁の流れ」が、「小銭をかぞえる」には表題作と「焼却炉行き赤ん坊」が収められている。

夫婦喧嘩は犬も喰わないとはよく言うが、それが西村の手になると、こうした味わい深いものになる。
その犬も喰わない話が延々と続くのを、飽きもせずに読み続けているのもどうかと思いながらも、やめられない。
「他人の不幸は蜜の味」というのとはちょっと違う面白さ。
男と女がともに生活していくなかから滲み出てくるリアリティ溢れる日常の手触り、そこから感じ取ることのできるいじらしさ、そんなものがじわじわと伝わってくる。

まずもって主人公北町貫多のだめさ加減は呆れるほど。
小心なくせに自尊心ばかりが強く、自分に形勢が有利となるとここぞとばかりに攻め立てるが、反対に不利となれば急に態度を改めて平身低頭するという情けなさ。
さらにはどうにも気持ちの治まりがつかなくなると暴力に訴えるという、最低のDV男である。
そのくせ最後にはどうしようもなく後悔に苛まれ、取り返しのつかないことをしたと慌てふためいてしまうのである。
そしてその言い訳のように「根が自らにひどく甘にできてる私」とか「根がスタイリストにできている」とか「根が狭量にできている」などと書く。
これは西村の常套句のひとつ。
この他にも以前にも書いたが、「慊(あきたりな)い」「はな」「結句」なども常套句。
さらに書くと、ほとんど使われることのない難解な漢字を多用するのも、彼の小説手法の特徴である。
ためしに小説のなかからいくつか拾い挙げてみると、「奢汰(しゃた)」、「駭魄(がいはく)」、「眇(すが)めて」、「虞(おそれ)」、「枉げて(まげて)」、「欷泣(ききゅう)」、「姦黠(かんかつ)」など、ルビがなければ読めないような漢字を多用している。
こうした難解な言葉は、主人公北町貫多の台詞のなかにも突然現れたりする。
そうしたスタイルは家具に傷をつけたり、塗装をはがしたりして汚しを施し、アンティーク風に仕上げる工芸のテクニックに近いものを感じる。
それによって独特の風合いをかもし出そうとしているのだろうと思う。
骨董趣味と言い換えてもいいかもしれない。
実際西村は、近代文学の初版本などを買い漁るのを趣味としており、その流れから大正時代の私小説家、藤澤清造と出会ったわけで、以後彼の没後弟子を名乗っている。
そうしたなかから生み出されたのが、このような擬古典的な手法なのだろう。
そしてそんな文体で書かれるのが、男と女の日常的な諍い、それもほとんどがつまらないことが原因で起きる話ばかりである。
そんな落差が何ともおかしい。
また無頼のような北町貫多が自分のことを「ぼく」などと言う落差にも笑いを誘われる。
そうした細かい演出が、あちらこちらに隠し味のように施されているのも彼の小説手法の特徴である。

北町貫多のなかには自身で制御不能の「獣」、悪しき力のようなものが住み着いており、それに振り回されて同じ過ちを繰り返してしまう。
敢ていえば、それは宿命のようなものかもしれない。
そうした星の下に生まれついた男の歪んだ自画像を、西村賢太は飽きもせず繰り返し、吐き出すように書き続けているのである。
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テーマ : 文学・小説  ジャンル : 小説・文学

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