風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 西村賢太  短編小説集  

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西村賢太「苦役列車」

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中学を卒業するとすぐに家を出た貫多は、日雇い仕事で生計を立てる19歳の青年である。
友達もなく、恋人もいない。
一日の終わりの一杯のコップ酒と、多少の金が貯まると風俗に通うことだけが最大の楽しみという、その日暮らしの生活を送っている。
そんな貫多が港湾労働の現場で、ひとりの男と出会う・・・・

単純明快、あまりドラマチックでもない話を書いた小説である。
しかしこれが藤澤清造の影響を受けたであろう擬古典的な文体で書かれた文章で読むと、とたんにこちらの心を鷲掴みにするような力強さを感じるのである。
西村の文章の特徴には、「慊(あきたりな)い」「はな」「結句」といった、あまり馴染みのない言葉の多用や、擬古典的な文体、さらには野坂昭如のそれに似た、多くの読点で繋いでいく長い文章などがある。
そうしたものに馴染んでいくに従って、次第に心地よいリズムに酔い始める。
そしていつしかその世界にどっぷりと身を任せるようになっていく。
その技は、なかなかのもの。
その味わいを例として挙げてみると次のようなものである。
「土台貫多のように、根が意志薄弱にできて目先の慾にくらみやすい上に、そのときどきの環境にも滅法流され易い性質の男には、かような日雇い仕事は関ってはいけない職種だったのだ。それが証拠に、彼はそれから三年を経た今になっても、やはりかの悪循環から逃れられず、結句(けっく)相も変わらぬ人足の身なのである。時折、その職種にインターバルをおきたくなったときには製本工場や書籍取次会社の仕分けに出かけることはあっても、いずれも給料は最悪の場合でも週払いの形態でなくては到底生活が成り立たない態たらくで、それとても最後は必ずお馴染みの埠頭に戻ってこざるを得なくなる、ちょっともう、簡単には軌道修正もきかなくなった、誠に愚昧な暮らしぶりであったのである。」

19歳という若さで早くもドロップアウトしてしまった少年の自堕落で救いようのない日常が、独特の文体で描かれている。
読んでいくに従って、葛西善蔵や太宰治といった破滅型私小説家の伝統を受け継いだ作家だということがよく判る。
自らの痛みや恥部を曝け出し、人間を掘り下げようとする意思を感じる。
こういう類の私小説というのは、読み手の精神状態によっては薬にもなるが、時には毒にもなってしまう。
暗い気持ちがますます滅入り、どんどんと厭世的になってしまう。
しかしそれでいてこういう世界にずぶずぶと引き込まれていく自分がいるのである。

先日も書いたが、この本を読んだ後「暗渠の宿」を読んだ。
それでますます彼の小説世界に取りつかれてしまった。
今日もまた図書館で「小銭をかぞえる」と「瘡瘢旅行」の2冊を借りてきた。
当分の間、西村賢太の小説世界との付き合いが続きそうだ。


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年齢:今年(2008年)還暦です。
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還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
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