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さだまさし「茨の木」

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さだまさしはシンガーソングライターであると同時に小説家でもある。
最初彼が小説を書き始めた時は、タレント本に毛が生えた程度のものだろうと勝手に解釈していたが、その後つぎつぎと小説を発表するのを目にするうちに、だんだんとその見方を変えざるをえなくなってきた。
そしていつかは読んでみたいと思うようになったのである。
これまでに「精霊流し」(2001年)、「解夏(げげ)」(2002年)、「眉山」(2004年)、「茨の木」(2008年)、「アントキノイノチ」(2009年)と、都合5本の小説本を上梓している。
このうち「茨の木」以外の4本は、すべて映画化されており、そのすべてを観ている。
そんなわけで唯一映画化されていない「茨の木」を読んでみようと図書館で借りてきた。

さだまさしの語りのうまさには定評がある。
高校、大学と落研にいたという経験を生かしたコンサートでのMCのうまさは、歌以上にそのしゃべりを楽しみにコンサートに来るファンもいるほどだという。
また彼の書く詩は限られた時間のなかで、豊かで独自の歌世界を作り上げている。
また小説以前から書いてきたエッセイのなかにも、その語りのうまさに唸らされるものがいくつかあったことを思い出した。
そうしたことを考えると、小説の世界に足を踏み入れたのは、必然のことだったのかと今更ながらに納得させられたのであった。

「茨の木」は家族の話を中心に据えた恋愛小説である。
主人公の元編集者が、突然亡くなった父親の遺品のヴァイオリンのルーツを辿り、イギリスへ旅立つという話である。
妻とは離婚し、今は仕事も辞め、これからどう生きていこうかと思い迷っている主人公の心の旅を描いている。
これはさだまさしがTV番組の企画として自身のヴァイオリンのルーツを辿ろうとスコットランドを訪れた実話を基に書かれた小説である。
その旅のなかで様々な人たちと出会い、生きるということ愛することに想いを致すというものである。

さだまさしにとって、「家族」というのは大きなテーマのひとつである。
「精霊流し」「無縁坂」「秋桜」など代表的な歌は、ほとんどが家族のことを描いている。
そうしたテーマを小説世界でも掘り下げようとしていることがよく判る。
文章はさり気なく、読みやすい。
言葉や表現には彼独特の感性があり、詩の世界と共通する叙情性に溢れている。
さすが語りのうまい彼らしい小説だと唸らされる。
しかし残念ながらそれ以上でもそれ以下でもなかったというのが正直なところ。
もうひとつ食い足りなさを残したまま読み終わった。
ただこれだけで彼の小説世界の良し悪しを判断するのは早計だろう。
今後は他の作品も読んでみたいと考えている。

ところで話は変わるが、先日NHKテレビ「おはよう日本」で「遅咲きの新人」という特集が放送された。
これは先月、黒田夏子が75歳で芥川賞を受賞したのに合わせて企画されたものである。
文学の世界では今“遅咲きの作家”が注目を集めているそうだ。
今後はシニア世代からベストセラー作家が誕生するのではないかと、多くの出版社が注目しているという。
そういえば先日読んだ百田尚樹も葉室麟も50歳を過ぎてから小説家になった人たちである。
また今回読んださだまさしも同様である。
様々な人生経験を経た後に、表現したいもの、書き残したいものが、人々の心の底に滓のようにたまっているということなのだろう。
それは何もプロの世界だけに限ったことではない。
かく言う自分もこうしてブログという手段を使って情報を発信しているわけだ。
表現手段は違えども、超高齢化社会を迎えてそうした人たちがどんどん増えているということに違いない。
それが小説世界にも広がってきたということだ。
この「茨の木」のなかにこんな言葉があった。
「生きて死ぬことの先にあるものは、誰かの記憶の中に生き続けるということではないのか。天国は、自分を覚えていてくれる誰かの記憶の中にあるのだ。」
そんなことを思いながら人々が、表現するということに向かっているのかもしれない。
この小説を読んだことがきっかけで、そんなことを考えてみたのであった。


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