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Category: 読書

Tags: 葉室麟  時代小説  

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葉室麟「蜩ノ記」

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第146回直木賞(平成23年/2011年下半期)を受賞した「蜩ノ記」を読んだ。
図書館で順番待ちをしていたのが、ようやく順番が回ってきたのである。

舞台は豊後・羽根藩。
奥右筆を務める檀野庄三郎という若者が、ささいなことから城内で刃傷沙汰を起してしまう。
本来は切腹となるところだが、家老から特命を命じられて切腹を免れる。
その特命というのは、幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷(しゅうこく)のもとで、彼が命じられている家譜(藩史)の編纂を補助することであった。
秋谷は七年前に、前藩主の側室と密通を犯したことで、切腹を命じられる身であった。
しかし家譜編纂という重要な役目があることから、十年の猶予を与えられていた。
その編纂を補助すると同時に、秋谷の身辺を監視するというのが庄三郎の役目であった。
しかし秋谷の側で過ごすうち、その清廉さに触れ、次第に事件への疑いを持ち始めるようになっていく。
そして自らその真相を探ることになるのであった。
その真相とは果たしてどのようなものなのか?
そうしたところが、この物語の骨格である。

秋谷の武士としての清廉潔白な姿やそれを支えようとする家族たちとの深い絆と愛情、そうした慎ましくも暖かな日常を見るにつけ、次第に人間的に成長していく庄三郎の姿が描かれていく。
そのなかに藩の後継者争いにかかわる陰謀や、厳しい農政の現実などが絡まってくる。

これまでの葉室作品同様の端正な描写で、つぎつぎと人間ドラマが紡ぎ出されていくところは、さすが熟練の技である。
直木賞受賞は文句のないところ。
ただあまりに秋谷が理想的に描かれ過ぎているところが、いささか気になるところである。
切腹を免れる機会が幾度もありながら、それをことごとく拒み自ら望んで死に向かおうとするところは、いささか納得できかねる。
もう少し人間臭い、隠された負の部分や葛藤にも踏み込んでいれば、もっと迫るものがあったのではないか、そんないささか欲張った感想を持ったのである。
この小説が地味な印象を与えるのも、そんなところにも原因があるのかもしれない。
考えてみればそれは他の葉室作品にも言えることなのだが、山本周五郎や藤沢周平の小説で感じられるような深い感動が、もうひとつ得ることができないのも、そんな地味さによるのかもしれない。
こうした感想がけっして高望みというわけではなく、そんな物語を間違いなく生み出してくれる作家だと思うからこそ感じることなのである。
直木賞受賞を契機に、また新たな高みへと登っていくような小説が生み出されることを願うばかりだ。

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テーマ : 読書感想  ジャンル : 小説・文学

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