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Category: 読書

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百田尚樹「錨を上げよ」下巻

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先日読んだ上巻に続いて下巻を読み終わった。
上巻は4日かかったが、下巻は2日でいっきに読んでしまった。
それほどこの小説は面白かった。
どこまで行っても飽きさせない。
稀代のストーリーテラー百田尚樹の面目躍如といった小説であった。

行き当たりばったりの生き方、おまけに金がなくなるまでは働こうとしない怠け者、そんな主人公だが、いったんこれと決めた目標ができると持ち前の行動力と集中力で猛烈に邁進していく。
その行動力と集中力は見上げたものである。
爽快感すら覚えてしまう。
中学、高校と劣等生で、まったく勉強もしたことのない彼が、突然大学を目指そうと奮い立ち、短期間の受験勉強の末に見事大学に合格してしまう顛末などは、まさにそれの最たるものである。
その思いつきに最初は誰も本気にしなかったが、彼の常識外れの受験勉強を見ているうちに、これは冗談ではなく、ひょっとするとその言葉通りになってしまうのではないかと思わせる。
これなども作者、百田尚樹自身の姿が大きく反映されているようだ。
彼自身中学、高校と劣等生で、大学へ進めるような成績でなかったものの、猛烈な受験勉強の末に大学に合格、しかしその後は生来の怠け癖もあって5年かかって卒業、大学時代に興味を覚えて出場したテレビ番組がきっかけで、卒業後はバラエティー番組の放送作家になっている。
そして仕事柄読書の必要性を感じた彼は猛烈に本を読み始める。
その結果、自分にも小説が書けるかもしれないと思って書いたのがこの「錨を上げよ」の基になる小説であった。
1年半かけて書いた原稿は2200枚、それが25年たって、ようやく出版されることになったというわけである。

そんな作者自身の性格や経験をさらに大きく膨らませて作り上げたのが主人公、作田又三である。
作者の経験や願望が込められた作田又三の冒険譚は痛快きわまりない。
その軌跡は目まぐるしく変転してゆく。
暴走族との乱闘、大学では過激派と衝突、イカサマ麻雀であぶく銭を稼ぎ、ヤクザと揉め事を起こし、上京しての浮浪者生活、右翼の仲間になったりホストになったり、パチンコ屋での住み込、レコード店での輸入の仕事、そしてある日偶然テレビで見たタラ漁に心揺さぶられ突如北海道へと渡ってゆく。
そこで出会ったウニの密猟で一攫千金を手にするようになる。しかしそれも数年後にはヤクザの手によってすべてを奪われてしまう。
そして大阪に帰り着いた彼はビリヤード屋で知り合った女性と結婚、昔の友人と偶然出会ったことからテレビの世界へと足を踏み入れ、放送作家の道を歩んでいくことになる。
ようやく手に入れた穏やかで平和な生活に満ち足りていたものの、あることがきっかけでこれも壊れてしまう。
とにかく作田又三のやることなすことすべて失敗の連続なのである。
行動力と集中力によっていちどは栄光を手にするものの、(もちろん数々の恋愛も同様だ。)最後はすべて跡形もなく崩れ去ってしまう。
それもすべて作田又三という人間の身から出た錆ということになるわけだが、それでもどこまで行っても彼はけっしてめげることはない。
深い傷を負い、立ち上がれそうもないダメージを受けるものの、そのたびに全身の力を振り絞って立ち上がる。
けっして絶望に陥ることはない。
その姿はリングで倒されたボクサーが渾身の力で立ち上がり、けっしてKOされまいと闘う姿のようである。
そのしぶとさ、自分を曲げない強さとその裏に隠し持った子供のようなナイーブさ、そうしたものを武器にあらゆるものぶつかっていく作田又三の短絡的で無鉄砲な生き方には、時に反発を覚えながらも痛快さを禁じえなかった。
そして作者は最後にこう書くのである。
「ぼくはその瞬間、勇気を感じた。そして人生は生きるに値するものだという強い思いに胸を貫かれた。
 人生の長い航路は、これから始まるのだ。」

作者、百田尚樹の25年前の生々しい声が聞こえてくる。そんなエネルギーに満ちた小説であった。

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