風に吹かれて

My Life & My Favorite things

Category: 読書

Tags: ミステリー  

Comment (1)  Trackback (1)

道尾秀介「水の柩」

mizunohitugi.jpg

道尾秀介の小説を読むのはこれが2冊目である。
前回読んだのは、「光媒の花」、こちらは短篇集だったが、今回の「水の柩」は長篇小説。
これを選んだのは、以前テレビの「週間ブックレビュー」に作者の道尾秀介がゲストとして出演、この本について話していたのを見て、いつか読んでみようと思っていたからであった。
それがたまたま図書館の棚に並んでいた。
さっそく借りて読んだというわけである。

<私たちがあの場所に沈めたものは、いったい何だったのだろう。 五十数年前、湖の底に消えた村。少年が知らない、少女の決意と家族の秘密。 誰もが生きていくため、必死に「嘘」をついている。 いま最もまぶしい作家が描く、成長と再生の物語。 老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より“普通”を欲していた。文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。だが、少女には秘めた決意があった。逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。絶望と希望を照らす作家・道尾秀介がおくる、心に染みる人間ドラマ!>
これがこの本について書かれた惹句である。

事件というほどのものは特何も別起こらないが、体裁はいちおうミステリー仕立てになっており、謎めいた過去や現在が交錯しながら物語は展開していく。
そうした興味に惹かれながら読み進んでいったが、いまひとつ盛り上がらないままに終わってしまった。
もうひと捻り欲しかった、そしてもう少し人間ドラマとしての深さが欲しかったというのが読後の感想であった。

人は忌まわしい過去の記憶をどうやって乗り越えていけばいいのか、また果たして乗り越えることができるのだろうか、そうしたことがこの作品の大きなテーマである。
人は多かれ少なかれ過去に捉われ、そして過去を引きずって生きている。
そしてそれが忌まわしいほど、そこから逃れようともがく。
だが、却ってその過去に捉われてしまうことになる。
消し去りたいと思いながらも消すことの出来ない過去、この物語では敦子という少女と、いくという少年の祖母のふたりがそうしたことを抱えて生きる人物として登場する。
それを逸夫という少年の目で捉えて描いていく。
「水の柩」という題名に因むように、雨やダム、川の水などの情景が印象的に描かれている。
そしてそこに射すさまざまな光が、人間の意志を超えた何ものかを象徴するように描かれている。
非常に映像的なものを感じさせる描写である。印象に残る描写である。

また蓑虫(みのむし)が効果的な小道具として使われているのにも興味を覚えた。
それについて次のような記述がある。

<昔、鬼は自分の子供を見て、この子も親に似て恐ろしい心を持っているのではないかと考えた。だからその子供をいっそ捨ててしまうことにした。秋風が吹く頃に帰ってくると言い残し、鬼は子供に、持っている中でいちばん粗末な着物だけを渡して出ていった。子供は親に言われた言葉を信じ、着物にくるまって帰りを待った。しかし父親は、いつまで経っても帰ってこなかった。
 だからいまでも蓑虫は、秋がくると、「父よ、父よ」と親恋しさに泣くのだという。>

そんな蓑虫を祖母のいくが飼っている。
そして色とりどりの毛糸や色紙を与えてカラフルな蓑虫を作らせている。
実際の蓑虫は蓑の中に入っている黒い芋虫である。
しかし人は外見である蓑を見て、それを蓑虫と呼ぶ。
しかもそれがカラフルな蓑虫だときれいだと言う。
だがほんとうの姿は黒く醜い芋虫でしかない。
人も同じで、中身が見られることがなく、外見ばかりで見られてしまう。
そうしたことが祖母の口から語られる。

「水の柩」の「柩」は「棺」ではなく「柩」にした理由を、「閉じたものではなく開いたイメージにしたかったから」と、「週間ブックレビュー」出演の際に語っていた。
その作者の言葉通り、小説の最後では開かれた空間を感じることができたのであった。


ブログランキング・にほんブログ村へ 
  ↑ クリック、お願いします。 ↑
スポンサーサイト
テーマ : 読んだ本の感想等  ジャンル : 小説・文学

Newer Entryボストン・テラン「音もなく少女は」 Older Entry宮本輝「五千回の生死」
Comments


いろいろな場面の表現力がすごかったです。
自分もその情景の中に入ってしまったような感覚になりました。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。






Trackbacks

私たちがあの場所に沈めたものは、いったい何だったのだろう。 五十数年前、湖の底に消えた村。少年が知らない、少女の決意と家族の秘密。 誰もが生きていくため、必死に「嘘」を
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
性別:男

還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

映画サイト「マイ・シネマ館」もやっています。
こちらもよろしく。

ランキングサイトに参加しています。
もしよければクリック、お願いします。↓
ブログランキング・にほんブログ村へ 

cooldaddyの本棚
FC2ブログランキング
ブログ内検索
QRコード
QRコード

12345678910111213141516171819202122232425262728293006 2017